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との連動性ということをやろうとはしないと思います。その時に、それではドルとの連動性が破壊されたということをもって、アメリカのヘゲモニーがますます強くなっているというのが本当に言えるのだろうか。むしろ今、問われるべきは、戦後50年間、アジアにおいて秩序を維持してくる、その根底にあったアメリカのヘゲモニーというものが、実は深刻な危機に入りつつあるというのが一つの教訓ではないか。

それから、もう一つは政治の問題ですが、私は民主主義と権威主義体制、そういう二項対立でもって政治を理解するということは、今回の危機から学ぶ教訓としてはあまり役に立たないのではないかと思います。タイは民主主義でした。にも関わらず経済危機に陥りました。インドネシアは典型的な権威主義体制です。これも経済危機に陥りました。ということは、いかなる政治体制をとろうと経済危機に陥っているのです。

では、共通なのは何か、両方とも例えば中央銀行は中央銀行としての役割を果たせなかった。だから国際金融の分野においてミスマネジメントが起こる。中央銀行がその機能を果たせるようなシステムというのはどうやって確保したらいいのかということが、実は問われているのではないだろうか。それはもう少し一般的に申しますと、政治のプロセスの中にはまさに、政治的なプロセス、つまり政治家が行うプロセスと、それから専門家、テクノクラートがやるプロセスと両方があります。そういう2つの中での分業体制をどうするのかということが、これは東南アジアだけでなくて日本の場合でも今、間われているのではないか。これが50年のスパンで見た時の教訓だろう。

それでは150年のスパンで見るとどうなるか。実は、我々が普通、「アジア」というふうに何となく地理的に呼んでおります東アジアから東南アジアの地域において、近代国際システムというものが導入されたのは大体150年くらい前の話です。それでは近代国際システムとは何かといいますと、それは基本的には2つの重要な構成要素があります。近代資本主義と近代国家というものから成ります。そういうシステムは大体150年くらい前にできた。ところが、ここで多くの場合、特に英語の世界では忘れられるのだけれども、非常に重要な点は、それでは150年くらい前に近代国際システムがアジアの地域に導入される以前には、国際的な秩序というのはアジアになかったかというと、そんなことはないわけです。あったわけです。あったけれども、あたかも何もなかったかのように議論するところに、例えば西洋の衝撃という概念が出てきたのです。では、そういう秩序、つまり150年以前、近世にあったような秩序が仮に近代になってどういう形で残ったのか、全く消え去ったわけではないだろう。つまり黒板に書いた字を消すように消えたのではなくて、それは残っているのです。

それはどういうものか。一つだけ例を挙げますと、これは香港上海銀行の例でございます。20世紀の初め頃、香港上海銀行がどういう経営をやったのか、文書を見ますと、どうやら2つのシステムが共存していたらしい。 まず第1に、これはイギリス人の銀行です。ですからイギリス人の銀行家がシステムを持っていまして、そこではいろいろな数字が書類の上にあって、これだけのお金が預けられて、これだけのお金が出ていったと、コストはどれだけで、どれだけのお金が貸し出されて、金利はどれだけだったと、全部数字の上にある。ところが、実際には具体的にあるAという人には金利5%で貸されて、Bという人には金利3%で貸されている。どうしてAとBの間でこんなに違いがあったのかということについては一切書類が残っていない。なぜかというと、やっていたのは両方ともチャイニーズだと、だからチャイニーズがチャイニーズのネットワークの中でそれぞれAとBの信用というものを評価して、そこでお金を貸していて、それはイギリス人の銀行家にとっては全くあずかり知らぬことだと、だから一つの香港上海銀行という銀行の中に、実は2つのシステムが同時併存じていたのです。

私がなぜこういう例を挙げるかというと、アジアにおいて導入成立した近代国際秩序のこれが象徴、メタファーということなんです。つまりすでに150年くらい前までには東南アジアの地域にはチャイニーズネットワークスというものがあった。それにどういうふうに乗るかということが近代国家、近代資本主義というものをつくっていく上で決定的に重要なポイントだった。それに対して日本あるいは韓国の場合には、そういうチャイニーズネットワークというものを排除する形で国民国家だとか、国民経済というのが編成されていった。だから例えば市場の自由化、民主主義化、透明度の確保などといっても、東南アジアではそれはひょっとすると近代そのものを掘り崩していくような話になるかもしれないということを考える必要がある。これが第2の大きな教訓です。

第3の教訓、これは、では500年のスパンで見るとどうなるかと、これは実はリード氏が「商業の時代における東南アジア」という本を書いておりまして、これは私はアメリカに行った時に教科書に使った本で、

 

 

 

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