なものが非常に重要になってくるのであって、これからそういう規制の緩和、透明性の確保のようなことをしていかないとだめだと、もう一言言いますと、これから世界は均質になっていき、経済のシステムはアングロサクソン型の資本主義の勝利ということになっていくというのが一つの教訓として特に英語の新聞、雑誌では引き出されている。
それからもう一つは、よい政治、“good government”というのは何かということで、これは民主主義の勝利なんだと、権威主義体制あるいは開発主義の時代は終わった、あるいは日本モデルというのも終わったと、だから例えばインドネシアはこれから民主主義に移らなければならないのだと、そういう議論が行われている。
問題は本当にそうだろうかということでして、私は非常に率直にどうも違うだろうと考えております。それはどうしてかということは、後でもまたもう一度申し上げますが、やはリアジアの歴史についてのかなり薄っぺらい理解から、アジアの長期の歴史を考えずに、過去数十年の歴史だけを見て教訓を引き出そうとすると、今、申し上げたような教訓になるのではないか。つまり歴史というのはいろいろな時間の幅でもって見ることができます。1年の幅で見るのも歴史の見方ですし、50年で見るのもそうだし、150年で見るのも、500年で見るのも、あるいは1000年で見てもいい。
そういう時間をどれぐらいの幅で見るかによって、我々が得る教訓は随分違ったものになるというのが第1点です。
それから第2点に、ここで誤解のないようにまず確認しておきますが、私がここでアジアと申しますのは、これはある地域の一つの政治経済的な秩序のことを使宜上アジアというふうに言っているということでありまして、例えばアイデンティティとか、文化の問題であるとかいうことは議論するつもりはありません。では、こういう一つの秩序というもの、これは歴史上さまざまに変わってきていますけれども、そういう一つの秩序としてのアジアというものが、時間のさまざまな幅の中でどういう違う姿を持って見えてくるのか、そういう角度から現在の危機についての教訓を引き出してみますと、およそ3点述べることができるのではないかと思います.
まず第1に、50年の時間の幅で考えてみます。第2次大戦後、1940年代の後半から50年代の初めに、例えばアチソンであるとか、ケナンであるとか、そういうアメリカの戦後秩序をつくった人たちが実際にどういう秩序を構想して、それをどうやってアジアにつくったのか。そういう秩序の文脈の中で、現在の危機というのはどういう意味を持っていくのかということになると思います。
では、そこで50年の幅のアジアというのは何かといいますと、非常に単純にこれは冷戦のアジア、さらにはここ10年近くはポスト冷戦のアジアということで、これは少なくとも1940年代ぐらいのところから見ますと、つまリアメリカのほうから見ますと、中国が共産化した、そういう共産中国を封じ込めて、その残りの地域、これを自由アジア、フリーエイシアというふうに呼ぶ。ここで日本と東南アジアと米国の三角貿易のシステムをつくる。それから日米安保同盟あるいは米韓安保条約あるいは米比安保条約のようなバイの安全保障条約の束で安全保障体制をつくる。そういう経済と安全保障の秩序の上に、例えばケナンの言葉を使いますと、リベラル・インターナショナル・オーダー、つまり自由主義的な国際秩序というものをつくっていく。やがて1980年代にはそこに中国も引っ張りこまれていく。そういうことになってきたのだろうと思います。ですから、そこでの秩序の基本的な原則というのは、まず第1に安全保障におけるアメリカの圧倒的有利です。
第2は、マーケットキャピタル、つまり資本主義の原理、それも自由主義的なリベラルな資本主義の原理、それから第3番目にリベラルな民主主義、こういう3つの原則だったのではないだろうか。
ですから、当然のことながらそういう自由主義的な国際秩序というものを維持し、これからますます強化しようという、アメリカのプロジェクトという観点から見れば、引き出されてくる結論は、市場のメカニズムをさらに効率よく発揮させるようなシステム、つまり透明性の確保あるいは拡大、規制の緩和というふうな市場原理をこれからもますます貫徹させることになりますし、政治的には当然のことながら自由民主主義を推進していくということになります。
けれども、それではこれが本当にこの50年の歴史のスパンを見た時の教訓なんだろうかと、どうも違うのではないかと、まずここでは2点だけ申し上げます。
まず、アジアにおけるアメリカのヘゲモニーは、それほど安定したものだろうかというのが第1点です。東南アジアの国々がそれぞれの国の通貨をドルに連動させるというのは、金融の分野においてはまさにアメリカのヘゲモニーの強さというものを象徴しております。仮に今、インドネシアでは少し妙なことが行われるかもしれませんが、恐らくもうどこもまともにドル