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セッション1

 

アジアとは何か〜アジアをどういうふうに見ていくか〜

 

座長 ピシット・パカセム (タイ、タイ投資証券会社会長)

報告 白石 隆 (京都大学東南アジア研究センター教授)

コメント グナワン・モハマド (インドネシア、情報普及研究所所長)

コメント 李 鍾 元 (韓国、立教大学法学部教授)

 

●座長:ピシット・パカセム(タイ、タイ投資証券会社会長)

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このセッションでは、韓国、インドネシア、タイの3カ国を意識的に取り上げたい。いまや我々は、新たなアジアのドラマ、アジア版メルトダウンの中で大きな役割を演じています。まず、日本の白石隆教授に、アジアの現在を理解する手段として、過去の歴史を50年、150年、500年と3つの時間枠に区切って、アジアとは何かをご説明いただきます。アジアの将来を予測する一助になればと思います。

 

●白石 隆(京都大学東南アジア研究センター教授)

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私に与えられましたテーマは「アジアとは何か」、アジアをどう考えればよいか、というテーマですけれども、この問題について、実は最初に事務局のほうからお話を受けた時には、今とは非常に大きく違うことがあった。それは現在の経済危機、それがインドネシアの場合には経済危機から社会危機、政治危機へと、今、深化しておりますけれども、そういう危機がまだ表面化するか、しないかの頃に、このお話を受けました。ですから今回の危機というものの深刻さをあまり考えずに、実はレジメも書いてしまった。ところが今になってみると、どうもこの危機はやがて歴史家が歴史を書く時、21世紀はどこから始まったのかという時に、ひょっとしたらこの危機で21世紀が始まったということになるのかもしれない、そう思うようになっております。

ということは、今のところは途中経過ですけれども、どうもこの危機で一つの時代が終わって、もう一つの新しい時代が始まりつつあるのだろう。では、どういう時代が始まりつつあるのかというと、これはもちろんわかりません。むしろどういう時代が始まるのかということは、我々が現在、直面している危機の中から、どういう教訓を引き出してくるのか、そういう教訓に基づいて何をするのかということによって、次の時代を我々がつくっていくのであろうと、それがこの危機の基本的な意味なんだろうと考えております。

ただ、それではどうしてこの現在の危機というのがこれほど深刻なのか、単純なポイントを挙げますと、ともかくやたらと大きなお金がかかるというのが一番重要な点として、2つだけ例を挙げます。

今回の危機が始まるまでに日本の東南アジアに対する経済援助の額を見ますと、一番大きいインドネシアに対しても1兆円レベル、それ以下の国々に対しては、数千億円の単位でここ15年くらい行われてまいりました。ところが今回の危機ではタイに対する支援として日本政府は100億ドル、ということは1兆3,000億円ぐらいのお金を約束しましたし、インドネシアについても同じぐらいの約束をしている。ということは、日本が東南アジアに支援として出すお金の桁が、1,000億の単位から今度の危機で桁が一つ上がって兆の単位になってしまった。その兆の単位のお金がひょっとしたら1年もしたら消えていくかもしれない。そういう時代なんだということが1点です。

それは日本だけに限らない。例えばここにおられるピシットさんがよく存じておられることですけれども、97年6月の時点で、タイの中央銀行は伝えられるところによりますと、 1日で230億ドルなくしております。当時の交換レートでいきますと、ほとんど3兆円近いお金をバーツ維持のために1日でなくしてしまったと、そういうすさまじい時代に我々は今、入っていっている。

ちなみに、先ほど今は兆の単位であると言いました。それはタイとインドネシアヘの支援、日本政府が約束した額だけでほとんど2兆5,000億から3兆円のお金なわけですけれども、これは例えば今回の所得減税の2兆円よりも大きい額です。

そういう危機が現にある。ではそこからどういう教訓を引き出せるのだろうか。どうも特に英語の雑誌、新聞の論調を見ておりますと、2つの教訓が引き出されているように思われます。

一つは現在はグローバライゼーションの時代である、したがってそこでは世界標準、グローバルスタンダードあるいは透明度、トランスペアレンシーのよう

 

 

 

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