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基調講演

21世紀の世界とアジア

 

テオフィスト・T・ギンゴナ(フィリピン前司法長官)

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アジアは世界経済において主要な経済圏です。世界の実質国民総生産の成長率が、1993年に2.0%だったのが1995年には2.6%へ伸びたのに対し、アジアの実質国民総生産は1993年には8.3%の成長率を記録し、1995年はやや下回ったものの7.9%を記録しました。1994年には、世界の輸出総額の約39%を占める2兆6000億米ドル相当の商品やサービスが、日本を含むアジアの各経済国から世界へ輸出されています。1990年から1994年の間に世界の輸出総額の伸びが7.1%だったのに対して、アジア太平洋地域の輸出総額の伸びは11.8%でした。同様に輸入額も、1990年から1994年の世界の輸入総額が6.9%の伸びだったのに対し、アジア太平洋地域の伸びは10.9%でした。1990年から1995年にかけてのアジア大平洋地域の発展途上国における輸出額の伸びは、世界の輸出総額の6.5%に対し15%の成長率でした。このように、日本を含むアジア太平洋経済地域の商業輸出総額は、1994年の時点で世界の輸出総額の24.8%を占めています。アジア大平洋地域の発展途上国の自動情報処理機器の輸出額は、1993年から1994年にかけて200億米ドルとなり、世界の貿易高の22.9%を占めています。事務機や事務用品の分野の輸出額は、世界の貿易高の24.8%にあたる160億米ドルでした。履物の輸出では世界貿易高の49%に相当する170億米ドル、特殊織物や特殊繊維の輸出では世界貿易高の20%にあたる26億米ドルでした。

日本を除くアジア諸国への外国からの直接投資額は、1994年には525億2100万米ドルに達し、1989年から1994年までの期間で総額1766億3000万米ドルになりました。1995年には、発展途上国への外国資本の流入総額2313億米ドルのうち、アジア太平洋地域の発展途上国への外国資本流入が占める割合は52.2%でした。この資本流入を分類してわかることは、世界の発展途上国全体への外国直接投資総額903億米ドルのうち、アジア太平洋地域の発展途上国に対する外国直接投資が、全体の61.7%を占めているということです。資本投資の分野では、アジア大平洋の発展途上国への直接投資額は、世界の発展途上国全体への外国直接投資総額220億米ドルの61.8%を占めています。

1995年のアジア地域の人口が世界人口に占める割合は62.2%でした。増え続けるアジアの人口は、潜在的な市場であるとともに、有力な生産者にもなると見られています。

アジア経済が現在直面している危機は、アジアの運命を左右しないまでも、その将来に大きく影響を及ぼすことになるでしょう。私は、今回の危機が生じた原因について言及するつもりはありません。それよりも重要なことは、我々がどうこの危機に取り組み、如何にして強靭で、健全な経済基盤をもち、多様性を備えた強大な勢力を今後世界経済の中に構築していくかということです。

目下、最も無視できない事実は、今回の危機が平和と秩序に与える影響です。法と秩序の維持は、安定にとっては欠くことの出来ない要素です。貧困は犯罪を引き起こし、仕事を失った者は自暴自棄となって犯罪を犯します。もし経済が健全であれば法的犯罪は減少します。効果的なプログラムとして進められている防犯対策と、行政機関相互の調整やアジア諸国の政府間での調整を図るこれまでの取り組みを、体制を一新して継続することが必要とされています。

防犯や刑事訴追の対象となるものに、経済・金融犯罪も含まれています。麻薬取引の防止や不法賭博の摘発、人命や財産の損失をもたらす犯罪の撲滅と同様に欠かせないのは、証券詐欺、銀行やノンバンク系金融機関による詐欺行為、経済上の破壊活動などの金融犯罪の防止です。金融犯罪を厳しく取締ることによって、金融市場における商慣習の基準が向上し、投資家の信頼を回復することができるでしょう。

現在の危機が深刻化すれば、失業率は上昇し、人間の尊厳は失われるでしょう。生活の必要に迫られ、犯さなくてもよい罪を犯してしまうことも考えられるでしょう。今回の経済危機が、法と秩序および市民社会の安定に大きな影響を与えることは明白です。

フイリピンのような発展途上国では、今回の経済危機や経済の国際化でもたらされた激しい競争で、多くの産業が大きな打撃を受けています。大手企業

 

 

 

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