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7.  バタフライに伴う障害

 

日本水泳ドクター会議,筑波大学臨床医学系整形外科  金岡 恒治

 

(財)日本水泳連盟医・科学委員会・医事部,高岡市民病院整形外科  山田 均

 

1. はじめに

 

水泳は腰痛,関節障害等の整形外科的疾患に対する運動療法に用いられる様に,本来骨・関節への負担の少ない運動である。しかし,競技選手の如く同一の動作を繰り返して行うことによって,使いすぎ症候群と呼ばれる障害が発生する。

水泳に於ける整形外科的な障害を表1に示すが,中でも肩関節障害,腰部障害の頻度が高く,バタフライ泳においてもその泳法の特徴から腰部と肩の障害頻度が高い。

 

2. 腰部障害:腰椎分離症

 

バタフライ泳のドルフィンキックにおいて腰椎には伸展・屈曲の繰り返しの負荷が生じ,これにより腰椎分離症を代表とする腰部障害を発生させる。腰椎分離症とは,腰椎の関節突起間部の疲労骨折により骨の連続性が断たれた状態を指す(図1)。

ここでは,この腰椎分離症について,その成因・好発年齢,症状・放置した際の予後,診断方法,一般に行われている治療法,対処法等につき述べる。

成因:骨の未成熟な成長期に,繰り返しの負荷が加わることにより,骨は疲労骨折をおこすが,腰椎の繰り返しの屈伸・回旋運動により腰椎椎弓の関節突起間部に力学的負荷が集中し,同部に疲労骨折を生じ腰椎椎弓の分離が生じる(図2)。このような疲労骨折は高校生になって発生することはまれで,多くは小学校高学年から中学1,2年の時期に発生する。スポーツ活動を積極的に行っている者にその頻度が高く,河野らの調査によるとスポーツを行っていない学生の分離症発現率が3.2%であったのに対して,スポーツを行っている学生では10.9%に昇っている。また,各種スポーツ活動別の出現頻度を同時に報告しているが(表2),それによると水泳を行っている者の11.8%に分離症を有していた。また水泳選手を対象とした武藤の調査2)によるとバタフライ選手群では22.0%とさらに高頻度に分離を認めている。この様に,バタフライ選手に高頻度に分離症が発生する原因は,その泳ぎの特徴として,ドルフィンキックによる腰椎の屈曲,伸展動作が関与していることが推察できる。特に,初心者で正しいフォームを会得していない選手は,呼吸動作の際に必要以上に体を反らし,腰椎の伸展を強制した泳ぎになりがちである。成長期の小・中学生が,この様なフォームで長距離,長時間の練習を行うことにより,腰椎への負荷が増し,分離を生じさせるものと考える。 症状・自然経過1症状は,分離の進行によって変化する。

 

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