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5. フィニッシュ局面

 

フィニッシュ局面では泳速度を低下させないことと,ゴールタッチを合わせることが重要となる。写真7にフィニッシュ局面を分類し,一連の動作を示した。フィニッシュ局面はマッチング期とゴールタッチの2局面に分類することができる。

マッチング期はゴール前5mからゴール直前の上ストロークまでの区間を示し,ターン局面と同様に,泳ぎをコントロールしながら泳速度を低下させることなく壁に接近し,最後の1ストロークをマッチングさせることが重要となる。

ゴールタッチはタッチ板に手が触れるまでの区間でなく,「電光掲示板が止まる」までの区間を示す。写真8にゴールタッチの動作を示した。写真の上段は直前の1ストロークのマッチングを失敗した例である。左側の選手は壁との距離が近すぎたために最後の1ストロークが短くなり,詰まった状態でタッチしている。逆に右側の選手は壁との距離が遠すぎたために,最後の1ストロークが入水した後に流れた状態でタッチしている。競技記録がほぼ同レベルの選手で,マッチングが成功した選手と失敗した選手のフィニッシュ局面の所要時間を比較した結果,概算で0.2〜0.3秒程度の差がみられた。さらに流れたタッチをする選手には,タッチを流している最中に頭をあげて正面(タッチ板)を見ることにより腕が斜め下方向にさがり,水面よりも深い位置にタッチする例も見られた。写真下段は手首が曲がった状態でタッチしている選手の例を示した。この選手はゴール直前から徐々に手首が曲がり始め,時計が止まった瞬間には写真のような状態であった。この選手のフィニッシュ局面の所要時間から概算すると,手首が曲がったことによるタイムロスは0.05秒程度であった。また指や手首のしなりによるソフトタッチで,タッチ板に触れてから時計が止まるまでに0.08秒以上のタイムロスが生じた例も報告りされていることと合わせて考えると,ゴールタッチには細心の注意が必要であることがわかる。

写真9にフィニッシュ局面の失敗した1選手(上の選手)と成功した2選手(中および下の選手)の通過時間の比較を示した。上段の写真は3選手の通過時間が54秒40(黄色),55秒40(紫色)および56秒40(赤色)の瞬間の映像を合成して作成した写真であり,下段は56秒90(緑色)の瞬間のものである。黄色,紫色,赤色および緑色のラインはゴールラインと平行に引いた直線であり,失敗した上の選手の頭部に接している。95m通過時間は上の選手から順に53秒73,53秒78および54秒13であり,上と中の選手がほぼ並んでおり,下の選手は遅れていた。その様子は54秒40,55秒40および56秒40の時点でもほとんど変化は無かったものの,上の選手は56秒40の時点でゴールタッチの動作に入り,「流れたタッチ」を開始していた。その結果,56秒90の時点では中の選手がすでに56秒68でゴールし終えたのに対し,上の選手は下の選手に並ばれてい,その0.05秒後に56秒95の同タイムで両選手はゴールした。フィニッシュ局面の所要時間は上の選手から順に3秒22,2秒90および2秒82であり,この例ではタッチを流すことによりゴール直前だけで0.3秒から0.4秒もの差が生したことがわかる。

以上のことから,フィニッシュ局面ではマッチングは極めて重要であり,さらにゴールタッチでタイムロスしないためには,身体を一直線に伸ばして水平姿勢を保持した状態で手首を曲げたり頭をあげることなく,腕を水平に伸ばしタッチ板に対して垂直に指先でプッシュすることが重要となる。

 

6. 局面推定式の利用方法

 

スタート,ターンおよびフィニッシュ局面について,具体的な目標記録を設定したり,あるいはレース後にそれらを評価することは,競技力向上にはたいへん有効なことである。それを簡便な方法で可能にしたものが野村により作成されたレースの局面推定式である5)6)7)。

 

 

 

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