写真3より青山選手には上半身に上下の動きが無いことがわかる。手先から腰にかけては一本の直線になっており,前面からの抵抗が小さい水平姿勢が保持されている。また頭の位置や視線も一定であることが観察される。つまり両腕でしっかりと頭を挟み込むことでに半身が強くブロックされ, ドルフィンキックの反動による上下動を防いでいると考えられる。一方,写真4の選手には上半身に上下の動きがみられる。No.1から6のアップキック動作では,水を押さえるように腕は下方向に動いていることが観察できる。さらに視線も進行方向から水底の方向に移っていることもわかる。逆にNo.7から12のダウンキック動作では,身体が反るようにして腕は水面の方向に動いていることが観察でき,視線も水底から進行方向へ移っている。その結果,手先から肩へのラインと肩から腰へのラインで作られる角度がアップキックでは180度よりも小さくなり, ダウンキックでは180度よりも大きくなっていることがわかる。このように腕が上下動することは,ドルフィンキックの反動による上半身の動きを腕だけで防ごうとしていることが考えられ,それは速度低下の原因となる抵抗を生んでいると考えられる。
4.ターン局面
ターン局面では折り返し動作を素早くスムーズに行うことと,壁を蹴って得た高い速度をより長い区間維持あるいは低下させないことが重要となる。
写真5にターン局面を分類し,その一連の動作を示した。ターン局面は3局面に分類することができ,それらはマッチング期,回転運動期およびグライド期とよばれている(2)。
マッチング期はターン前5mから壁に手が触れるまでの区間のことを示す。ここでは泳速度を低下させることなく壁に接近し,次の回転運動期において素早い動作を行うための準備として,最後の1ストロークをマッチングさせることが重要となる。最後の1ストロークが流れたり,詰まったりすることなくマッチングさせるためには,せめて5m前からはストローク長を大きくしたり,あるいはストローク頻度(ピッチ)を高めるなど,泳ぎをコントロールすることが求められる。
回転運動期は壁に手が触れた後に回転動作により足が壁に接し,蹴り出しにより足が壁から離れるまでの区間のことを示す。ここでは素早く回転動作を行い,力強く爆発的なパワーで壁を蹴り出すことが求められる。写真6に回転運動期の一連の動作を0.1秒毎に示した。壁に手がつく位置は水面のやや下であり,腰の位置とほとんど同じ高さである(No.2)。続いて下半身は脚を折り畳みながら膝を胸に引き付けるようにして壁に向かって移動する(No.3〜5)。身体の回転は腰を中心にして上半身,下半身ともに時計回りに回転していることがわかる(No.6〜10)。足が壁につく位置は手や腰の位置よりもやや低い位置であり(No.10),その時に膝はすでに曲がっており,蹴り出しの準備ができていることがわかる。その後,壁に対して垂直に力強く蹴り出されており,水平姿勢も取られている(No.11,12)。以上のことから回転運動期のポイントとして,壁に手がついた後は腰を中心にして素早く上半身,下半身ともに時計回りに回転動作をすることと,その目処としては手と足が壁につく位置と腰の高さがほぼ同じ位置であることがあげられる。また平泳についてではあるが,時に手がついた後に頭を反時計回りに振り込み,その後回転動作を開始した場合はタイムロスになることが報告されている(6)。
グライド期は足が壁から離れた後,泳ぎ始めるまでの区間のことを示す。ここではスタート局面におけるグライド期と同様に高い水平方向速度を可能な限り長い区間維持し,泳ぎに繋げることが重要となる。そのためにはより抵抗の少ない水平姿勢を保持し,高速度を維持し続けるドルフィンキックが有効となる。