さらにエントリー期において水の抵抗を大きく受けないような効果的な入水ができるように準備しなければならない。
フライト期の姿勢には図7に示したようにフラットスタートとパイクスタートがある。フラットスタートは飛び出し角度が小さいことから,滞空時間を短縮することができる。しかし入水角度が小さいために,ホールエントリーが難しくなりエントリー期に大きな抵抗を受ける可能性がある。一方,パイクスタートは飛び出し角度が大きく,高く飛ぶために滞空時間は延長される。しかし入水角度は大きくなることからホールエントリーが可能となる。パイクスタートは多くの選手が採用しており,写真1にも見られる。
エンリトー期は,手先が入水した後,足先が入水するまでの区間のことを示す。ここではフライト期までに得た高い速度が,入水時に受ける水の抵抗により大きく減速する区間である。したがって高い水平方向速度を維持できるような抵抗の少ない入水方法が求められる。一般的には最も抵抗の少ない効果的な入水方法としてホールエントリーが適していると考えられている。ホールエントリーとは手先の入水した地点を頭,腰,膝そして足先が順番に入水する方法であり,入水範囲が狭いことから入水時に受ける抵抗は小さくなる。しかしそれを行うために入水角度が大きくなり過ぎることもあり,水中深く潜ってしまい水平方向速度が低下してしまうなどの危険性も含んでいる。したがって最適な入水角度としては,ホールエントリーを行うことが可能な最小角度が求められる。
グライド期は足先が入水した後,泳ぎ始めるまでの区間のことを示す。ここでは高い水平方向速度を可能な限り長い区間維持し,泳ぎに繋げることが重要である。そのためには,より抵抗の少ない水平姿勢を保持しなければならない。
写真2に3選手の入水直後(ドルフィンキック開始直前)の姿勢を示した。各選手の姿勢がわかりやすくなるように,手先,手首,肩,大転子(腰),膝,足首および足先を直線で結んで示した。上段の写真の選手は手先から足先までがほぼ一直線になっており,抵抗の少ない水平姿勢が保持できていることがわかる。しかし中段の写真の選手は身体全体はほぼ一直線に保持できているものの,足が下方向に沈み身体全体が斜めになっている。したがって前面から受ける抵抗が大きくなり,速度を大きく低下させる原因になっていることが考えられる。中段の写真の選手は肩から足先にかけては水平姿勢を保持できているものの身体全体は一直線になっておらず,手先から肩へのラインと肩から足先へのラインで作られる角度が180度よりも小さくなっている。さらに頭も前屈していることが観察される。その結果,腕全体と頭部の付近に前面から大きな抵抗を受けていることが考えられる。
写真3にドルフィンキックの動作が優れている選手として青山選手を,写真4に劣っている男子選手の一連の動作を示した。No.1から6はアップキックの動作を,No.7から12はダウンキックの動作を示している。また写真2と同様に,両選手の動作がわかりやすくなるように,手先,手首,肩,大転子(腰),膝,足首および足先を直線で結んで示した。