そしてフィニッシュが5mであることから考えると,最高値と最低値の比較であるとはいえ,それらの差は小さいとは考え難い。また図4に男子,図5に女子100mバタフライにおける競技記録と各局面所要時間との関係を示した。競技記録と各局面所要時間には有意な相関関係(p<0.01)がみられたことにより,競技記録の短縮には各局面所要時間の短縮が重要であることがわかる。このことは他の種目でも同様な結果6)7)がみられており,バタフライに限らず短距離種目についてはスタート,ターンおよびフィニッシュ局面における所要時間の短縮に関与する技術や能力の向上が必要であることが伺える。
3. スタート局面
スタート局面は泳ぎでは作り出せないような高い速度を入水までに得ることと,入水後にはその高い速度をより長い区間維持あるいは低下させないことが重要となる2)。
写真1にスタート局面を分類し,その一連の動作を示した。スタート局面は4局面に分類することができ,それらはブロック期,フライト期,エントリー期およびグライド期とよばれている。
ブロック期はスタート台上での構えから,スタートの号砲が鳴った後,足先がスタート台から離れるまでの区間のことを示す。一般的にはブロック期に要する時間をブロック時間あるいはスタート反応時間と呼んでおり,日本選手権出場者では速い選手で0.6秒前後,遅い選手で0.9秒台であり,平均的には0.7秒台であることが報告されている2)8)。このブロック時間を短縮するためには構えの姿勢,音に対する反応能力および爆発的な身体パワーを発揮することが重要となる。
構えの姿勢では大半の選手がグラブスタートを採用しており,スタート台のつかみ方には図6のような3通りの方法がある。スタート台をつかむことは台上での姿勢を安定させることや,素早く飛び出すための補助的動作としてではあるが,
スタート台を手で押したり引くことが可能となる。その結果,写真1のように飛び出し時の姿勢には腕を前方に振り出す選手や,逆に後方に振る選手が見られる。さらに身体重心を可能な限り前方に位置させることが重要となる。なぜなら離合時までの身体重心の移動距離が短くなるからである。また最近ではクラウチングスタートを採用する選手も多くみられるようになってきた。
フライト期は,足先がスタート台から離れた後,手先が入水するまでの区間のことを示す。ここでは「より速く,より遠くに」入水することが求められる。つまり入水距離を延長させることと,泳ぎの中では得ることのできない高い水平方向速度を獲得することが求められる。