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占めており,サイドブリージングを見かけることはほとんどなかったが,90年代に入ってからは,バルセロナオリンピックの200mで優勝したM.スチュワート選手(アメリカ)や,アトランタオリンピックで100m,200mともに優勝したD.パンクラートフ選手など(ロシア)(図16),その数は多くはないものの,トップクラスの選手に見られるようになってきた。日本では,1997年のインターハイを制覇した高安亮選手がサイドブリージングを行っている。考えられるサイドブリージングの利点としては,顔を前に向けないですむために,呼吸をするための頭の位置をクロールと類似した位置に保持でき,頭の過剰な高揚と,それに伴う腰,下肢の沈みなどを抑え,重心移動を小さくできる点である。

直接サイドブリージングと関係するわけではないが,最近のバタフライの研究的において,レベルの高いバタフライ泳者は,レベルの低い泳者よりも,1)ストローク内での重心変化の分散が小さく,2)エントリーからアウトスイープにかけての,重心移動速度の減少傾向が小さい,そして3)リカバリー中の重心移動速度が高いことが示されている。すなわち,速いスイマーは遅いスイマーよりも,上下動が小さく,進行方向に対してのみ,より効果的にエネルギーを用いていることを示唆するものである。したがって,エントリーからアウトスイープに入る際も,リカバリーの際も,上下方向に移動して水平方向の速度を殺すのではなく,前進方向への高い速度を維持できるのである。これらのことを総合して考えれば,サイドブリージングは,効果的に前進方向へ重心を移動させるための1つの技術として一考する余地があるかもしれない。

 

5-g. 潜水泳法

 

この泳法は,パンクラートフ選手や青山選手が用いている技法である(図17)。ただし,この技法は,キックのみで泳いでもスイムよりも高い速度を産生できるという特殊な能力を持っている人のみ有効となる。潜水泳法は潜水距離が制限され,使いにくくなりそうな雰囲気ではあるが,ストローク局面での技術というわけでなく,スタートとターン直後を利用したドルフィンキックのみの特異的な技術が,大幅に記録を更新したという事実は,今後新たな泳法の改善に向けて,何らかのヒントを与えてくれるであろう。

 

5-h. 将来のバタフライは

 

では,将来のバタフライの技術はどの様になっていくのであろうか。果てしなく未来のことまでは想像不可能であるが,これまでに紹介してきたバタフライの技術の変遷,および特異的な技術を総合的に考えてみると,スタートとターン直後はやはり潜水してドルフィンキックを用いることが効果的と思える。ただし,潜水泳法の可能な距離が制限されてしまうことが予測されるので,現在のように可能な限り潜るということはできなくなるであろう。したがって,一旦浮上して,1ストローク後に再び水中に潜ってドルフィンキックで進み続けるか,または通常のバタフライストロークを行なうことになる。この際には,限りなく上下動を抑えたフラットな泳ぎに近づいていくことが予測される。呼吸も水面ぎりぎりで行われ,リカバリーの腕や手も水面すれすれをかえすようになることが予測される。現段階でも,パンクラートフ選手はリカバリー時に肩が完全に水面より上へでてこないくらい低いリカバリーを行っており(鹿島瞳選手のコーチである川原歩コーチ談),これは参考になるはずである。また,キックの軌道やプルパターンについては,揚力と抗力の合力である推進力が最大となるような手や足の向き,速度,軌跡を,各選手の身体的特性を入力して,コンピューターシミュレーションから割り出すような時代が来るかもしれない。

 

6. ルールの変遷

 

平泳ぎからバタフライが独立した際に,明らかに変わったルールとしては2点ある。

 

 

 

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