抵抗が減少されている5)。また,古いタイプのバタフライでは呼吸のタイミングが遅く,上体の浮き上がりが大きいため,重心の上下動も大きかった。さらに,この呼吸のタイミングの遅れによって,頭の戻しが遅れ,その結果手の入水は浅くなり,上体が立ち気味に,腰が沈みがちとなっている。したがって,その後にキックを打っても腰が上がらず,その力は手へ伝わりにくくなっている(下から2つの図)5)。しかしながら,改善後は呼吸のタイミングが早くなっており,重心の上下動が小さくなっている(上から3,4,5,6番目の図)。このように同じ1ストローク2キックのコンビネーションでも,プルとキックのタイミングの改善は,スムーズな泳ぎ(発揮した力を効果的に推進力へかえる泳ぎ)を作り出す上で大きく影響することが明らかである。ここで示したタイミングのずれは,古いタイプの例として用いたが,現在でも未熟なスイマーと熟練したスイマーの間で見られる違いとしても上げられよう。
5-d.第2キックの強調
これ以降に述べる例は,技術の変遷ではなく,特異的な技術の紹介である。
バタフライのキックは,第1キックよりも第2キックの方が強く,重要であることを説くもの3)12)と,第1キックでは大きく,第2キック浅く小さく打つこと,または第2キックは推進力に関係なく身体の沈みを防ぐ程度とするもの5)11)23)とがあり,必ずしも一致した見解はない。しかしながら,過去に大記録を樹立したスピッツ選手をみてみると,特に泳速が速くなるほど第2キックを強く打つことが明らかにされている3)。また,図14はマーハー選手のドルフィンキック中の下肢3関節の経時的角度変化を示しているが,これを見ると,マーハー選手の膝関節角度の変化は第1キックと第2キックとで非常に類似している。このことは第1,第2キックともに同様のキックを行っていることを意味するものである。つまり,マーハー選手の場合は,腕のストロークのタイミングにキックを合わすというよりは,
同じテンポで打っているキックに,うまく腕ストロークを調和させている感じで泳いでいるわけである。これらのことを鑑みると,やはり第2キックを強調して打つことは重要な意味を持つと思われる。
5-e.入水の特異例
一般に,バタフライの入水は肩幅くらい,またはそれよりやや広めで行われる3)6)。しかしながら,図15に示したグロス選手のエントリーは,手の甲と手の甲がくっつくほど中央で行われている。オーバーリーチング7)といわれるが,類希な肩の柔軟性のため,なんら問題とはなっていない。このエントリーからグライド,キャッチに到るまで流線型を保つ姿勢は,入水時の抵抗因子を減らすために少なからずとも貢献していると思われる。しかしながら, これも異様なまでに長い腕と肩の柔軟性があってこそ可能な技である。
5-f.サイドブリージング
サイドブリージングは,必ずしも新しい技法ではない。バタフライが独立したばかりのメルボルンオリンピックで銀メグルを獲得した石本選手もその使い手の上人であった。しかしながら,その後近年までは,前を向いて行う呼吸法が主流を