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第19回日本剣道少年団研修会最優秀者作品

「志す道」

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岐阜県大垣市

志道館学同

中学一年生

郷清貴

 

「もえちゃんがいない!道場へ行くときは確かにうちにいたのに」「道場で稽古してる間に家から出たんだ.....」僕達家族は皆、真っ青になりました。

もえちゃんというのは僕の妹です。妹は、生まれつき重い障害を背負っています。これは、まだ妹が幼稚園児だった頃の事です。僕はその日稽古のために道場へ行っており、家では母が夕食の支度をしていました。誰もが妹は家の中にいると思っていました。しかし、妹は家を一人でぬけ出し、ある場所へと歩き始めたのです。それから二〜三時間後、警察署から、「お宅のお子さんを保護しています。」と連絡があり、妹はやっと見つかりました。

「よかった…見つかった…」

とにかく家族全員で無事を喜びました。

詳しく話を聞いてみると、妹は片手に短い竹刀を持ち、道場を目指して、一人で国道を歩いていたそうです。その竹刀は、「道場へ行って剣道を本格的にはできないけど、この竹刀でいっしょに剣道やろう。」

と、つくった妹用の短い短い竹刀。妹はそれを持って、剣道が見たくて、僕が通う道場へと歩いたのでした。妹は僕の剣道の試合がある時は必ず、両親と一緒に来て、「お兄ちゃん、がんばれー」と、声援をしてくれます。僕の稽古をいつも見ているので、切り返しも、面や小手、銅の技も、妹は覚えてしまいました。本来なら、一緒に道場で稽古がしたいのでしょう。僕はこんな妹のために、また妹のような難病で苦しんでいる多くの子供達のために、小児科の医者になりたいと思っています。それがどれ程大きな夢であるか、どれ程大変なことか、また、どれ程責任のあることかわかっているつもりです。でも僕は、大きな夢に向かって進んでいく勇気を、僕の今までの七年間の剣道生活で少しずつ身に付けてきました。

剣道を修練する目的の一つに、心身を錬磨するということがありますが、特に「心」つまり精神力や忍耐力を育てることができるのは、色々なスポーツの中でも剣道が突出していると思います。

剣道の試合は一対一、団体戦はチームワーク良く励まし合いますが、戦いそのものは、一人対一人です。一対一というのは、どう言葉に表現していいのかわからない程の緊張感があります。ひとたび審判の先生の「始め!」の号令がかかれば、後ろには引けず、もう誰も助けてはくれません。僕自身、チームの大将を努めていたこともあり、自分の試合の結果でチームの勝敗が決まる、という場面が何度もありました。『負けたらどうしよう』という不安が頭をよぎります。しかしその雑念を振り払いひたすら前へ前へと攻めるのです。

剣道はまた、色々な喜びも与えてくれます。日本武道館での全国大会で優秀賞を頂いたことや、全日本選手権で昨年四度目の優勝を成し遂げた宮崎先生に、胴にサインをして頂いたこともその一つです。

 

 

 

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