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1997 国際保健協力フィールドワークレポー卜

 

北條 智人(横浜市立大学医学部5年)

急速なグローバル化は、個の外部に与える影響が系全体に及ぶことを意味する。 しかし、個に認識できることはわずかであるが故に、このことは見落とされ、個はおよそ全体に対する配慮、戦略と言ったものの欠如した営みをなす。かくして平衡状態からの遷移はその速度を加速させて、新たな平衡状態へと向かう。すなわち、我々は現在の世界にとどまることはもはや無理なのである。ただし、新たな平衡状態を我々自身の手で決定することは不可能ではないだろうし、我々が生き延びるためにはせねばならないことである。では、そのためにはどうすべきだろうか?

この問の答えが容易に得られるのなら、誰も未来に危機感など持ちはしないだろう。それ故にこのような時代にあっては、我々はとりあえず、よりマクロ的視点のもとで行動することが必要である。ここでいうマクロとは、たとえば医療に携わるものにとっては、およそ人の健康に関わること全てであり、医療は言うに及ばず、政治・経済等あらゆる分野とリンクするものである。

唐突な冒頭ではあったが、私が今回のフェローシップに参加した理由の一つは、この、「マクロ的視点のもとでの行動」の形を模索するためであった。「国際」の名を冠する以上、様々な分野との連携プレーがみられるだろう、と期待してである。さて、現実はどうであったろうか?JICAやWHO、そしてフィリピンの保健機関は私の想像以上に確固とした戦略のもとにプロジェクトを組み、実にsystematicに問題に取り組んでいたが、自分たちの領域外との連携はかなり乏しいものであった。我々が見て回ったのは、主に結核、ハンセン病予防&治療、家族計画といつたものにまつわるものであったが、いずれも、こうした問題が生じる原因の大部分は医療という領域の外にあるはずである。よって、彼らは自分たちの領城外を担当する組織と様々なネットワークを形成する必要があると思うのだが、これらの組織の領域外に対するアプローチの姿勢はきわめて微々たるもの(さすがにWHOは幾分ましだったが。)であった。その原因としてすぐに思いつくことをいくつか並べると、1.ネット形成のためのコーディネーターの不在、2.ネット形成という発想の欠落、3各組織の独立性に起因する連携の妨げ、などがあげられるが、いずれにせよ、対する問題の大きさ、深さが手に余りすぎることが、これらの根幹であろう。もっとも、冒頭に述べたように、それでも、あるいはだからこそ、マクロに行動しなくてはならないのだが。

今回の旅では、以上のような経緯で、取り上げたテーマに関しては、向こうから直接、求めるものを見いだすことはできなかったが、逆に求めるものが存在しないことが、間接的に考察を与えてくれた。その意味では、まずまずと納得している。もちろん、ここで取り上げなかったことは無数にあるが、それらは私の行動に生かされるであろうし、そう努めることは約束できる。

 

 

 

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