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秋冬の隅田川、あるいは東京の水辺を描いて、かつそこに必ず人間がいる。人間が川とどう付き合ってるかが描かれているわけです。そこが大事なんです。

私は僣越にも大学で使う河川工学の教科書のカバーにこの絵を使っていますが、河川工学になんで広重の絵が出てくるんだと言われそうですが、広重というのは自然の観察眼が大変優れていた。しかも、そこに必ず人間がいる。自然と人間がどういう関係にあるかを非常に克明に観察し、それを描いてるんです。河川技術者たるもの、川の観察力がなければ駄目だ。しかも、人間がその川とどう付き合ってるかを知ることこそ、河川技術にとって一番大事なことだ。そこで、広重に学べと言うと、急に絵を勉強しだすのではなくて、その精神です。彼は芸術家ですが、技術屋でも特に自然を相手とする土木工事のような技術者は、自然の観察眼、そして人間と自然の関係を知ることが大変大事です。

 

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その人間という場合に、このナショナル・トラストとの関係で考えれば、地域住民が川を育てるんだ。つまりこれは夕立ですが、春はもちろん桜のもとで川べりで浮かれている絵です。つまり春夏秋冬というのは、日本の水の風景というのは大変変化に富む。日本はそもそも水が豊富だと言いますが、のみならず四季こもごも極めて違った風情を見せるんですね。2000年来、その水の微妙な変化に鍛えられたんです。そして春夏秋冬の水の変わっていく状況を体得して、それに暮らしの基本を置いていたと思います。決して水田農民だけではないんですね。

そういうふうに鍛えられたからでしょうか、日本人の水とか川との付き合い方は、基本的には大変巧みだったと思う。それは江戸時代末期のこういう絵を見れば分かるんです。それが百数十年来の近代化の間に、その自然と付き合う考え方、流域の人たちがそれを忘れたんではないかと思いますね。つまり欧米に追いつき追い越せと言う時に、悠長な江戸時代以来の自然を楽しむなんていうことを言っていたんでは追いつけなかったかもしれませんが。そして戦後の高度成長期に更に拍車をかけて、まっしぐらに、遠い先でなくて近未来の経済効率ばかり考えて公共事業を行ってきた。それがまさに反省すべきことであって、だれかの後ろを走ってる間は前のランナーの様子を見てればよかったけれども、先頭に立って走り方が分からなくなった。しかし、自然との付き合い方は、かつて我々は、それぞれの時代における技術やら財政の水準にのっとって自然とうまい

 

 

 

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