丈夫なようにというので、海岸堤防を懸命につくり、河川の下流のほうの堤防を次々高くしたんです。
隅田川でも下流のほうの堤防を高くした。ところが、都会で川幅が広げられないものですから、垂直的に堤防を高くするんですね。その時はあんまり文句は出なかったんですが、伊勢湾台風というのは昭和34年です。30年代の終わりとか40年代のはじめは、早く高い堤防をつくってくれという要望が強かったけれども、40年代の半ば以降になりますと、いろいろ文句が出てきまして、なんであんな高い堤防を築いたんだ。特に隅田川なんか、あんな監獄の塀みたいなものをつくったんだ、もう川べりを散歩もできない。川べりを歩いても川が見えやしない、ひどいものをつくったということになりました。その後、隅田川はご覧のようにだいぶよくはなりました。つまり高い堤防を築いたことが川の周りの人たちと川を断ち切ってしまったんですね。
そういうわけで川離れ現象を起こしていたんですが、先ほど申し上げましたように、第3の柱は地域と河川との関係の再構築。川べりの人たちが喜んで川へ来てくれるようにするのが、河川事業にとって大事なことであり、惹いては河川環境を保つゆえんである。それが3年前に河川審議会で出ました「今後の河川環境のあり方」という答申です。
それから2年前に、「21世紀の社会を展望した今後の河川整備の基本的方向について」という答申が出まして、これも「河川環境のあり方」の答申の延長線上ですが、流域の視点に立って人と川の関係を考えよう。つまり従来の河川工事というのは河道のみに注目して工事してたわけです。堤防を築く、ダムを築く、堰を築く。流域ということを十分意識しなかった。流域はまた扱ってる官庁が違いますから遠慮もしたんでしょう。しかし、川を考える時には流域の立場に立たねばならない。
それから従来の河川事業というのは川の異常日ばかりを考えていた。つまり大洪水の時とか大渇水。これは365日のうちの、年によって違いますけれども、10日か2週間ぐらいです。大洪水とか渇水は。その時には大事に違いない。堤防が切れては困りますし、渇水も困りますから。しかし、そのほかをあまり重視しなかったんです。普段の川をもっと考えねばいかんというので、川の365日を意識して、これからの河川のあり方を考えようというわけです。
普段の川となりますと、俄然重要になるのは環境問題です。水質とか、あるいは河川景観とか。大洪水の時に川べりに散歩に行く人はいないですから、365日というのは普段の川、異常日以外のの300日ぐらい、三百何十日の間、周辺の人たちが川に喜んで来ていただけるような、そういう川こそあるべき川の姿である。盛んに川べりに来てくだされば、川に対する理解も深まるし、いい注文もしてくださるだろうというわけです。
それを受けまして、1年1カ月前、河川審議会では「今後の河川制度のあり方」という、そういう従来の答申を具体的に、これは法律を変えないと実効に至りませんので、法律を変えようということを一昨年の12月に提出して、それが実って、去年の5月の末に衆参両院を河川法改正案が通りました。
いろんな改正項目がありますが、一番大きなのは、河川法の目的に河川環境の整備と保全という項目を入れたことです。かつての河川法にはどこにも環境という言葉がないんです。だから、法的には環境のことはどうでもよかったんです。つまり従来は治水、