がないと糞、小便ができない。トイレがないところでは糞、小便ができないので糞詰まりになるということで、子供が非常にそういう自然との間で暮らすことを敬遠するということがある。まさにその糞、小便を自然の中で放つということが、人間が自然の中の動物の一種だということを実体験するためにはかえって望ましいことであるんですけれども、しかし、今のようにトイレが普及をいたしますと、理屈ではそうであっても、なかなか子供たちがいやがる。そこでどうやって便器を担ぎ込むかと。便器を山の中へ持って行くかという対策を考えないと、うまく子供を山の中へ連れて行かれないというようなことがありまして、先生方にぜひひとつ子供に自然に触れるようにしてくれと、そういう教育をしてくださいと申し上げても、今言ったような理由からなかなか実行されないのでございます。
そこで私どもの事業として、山業というのを進めていくためにはどうしたらいいかということの一つとして、とにかく第1は、都会の方々に山へ行ってもらう。自然に触れてもらう。しかも、それは例えばいわゆるレクリエーション、観光のためであっても結構だと。別に山へ行って一生懸命山とは何ぞやって勉強してもらわなくても結構だと。空気がきれいだな、空が美しいな、虫が鳴いてるよ、鳥がさえずってるよということを知ってもらうだけで結構なんで、とにかく山へ行ってもらいたいということをどうやって、神奈川県の例で言えば県民に知ってもらうかということが大きな仕事だと考えまして、それで今、いろいろな方法で町の人方に呼びかけをして、山へ行きましょうと、草のにおいをかぎに行きましょうと、虫の声を聞きに行きましょうという働きかけをやることがまず第1だと。そして山の価値、林の価値というものを大勢の人に理解してもらえれば、山で仕事をしている方々も元気が出てくる。木を育てても何にもならんというのでは元気が出てこない。だから、大勢の人が、都会の人が山へ来て、「あ、水がきれいですね」「鳥が鳴いてますね」ということで、町の人がしょっちゅう山へ上がってくるというふうに仕向けなければならないと考えております。
ところが、だんだん鳥がいないんですよ。獣もいなくなってきました。「どうしたのかね」と言ったら、杉、ヒノキを植えすぎたということなんですね。杉、ヒノキというのは実がならないでしょう。ですから、実がならないものですから、鳥や獣が育たないわけであります。広葉樹といいますか、実のなる木があればこそ、山の中にクマも育ったわけでありますし、いろいろな鳥も育ったわけでございます。
私どもの東京の町の真ん中でも、ついこの間までは、ごくまれでありますけれども、私の家は若干庭に木があります関係もあって、よく3月、4月になりますとウグイスが来てくれたんですね。なぜウグイスが来てくれるかと言うと、私の家に実のある木が若干あったものですからウグイスが来てくれたわけなんですけれども、もう今やだんだんウグイスも来なくなりました。それで日本中、鳥がいなくなる恐れがあるんですね。魚がいなくなる恐れがあるんですよ。魚のほうは、ダムをこしらえますから、ダムといって大きなダムじゃなくて、ほんの小さな小川にも砂防ダムというようなのをこしらえて、上から土砂が流れてこないように途中でせき止めるように小さなダムをつくりますものですから、魚が上がったり下がったりできなくなるものですから、日本の川は急激にお魚が減ってきました。林からは鳥がいなくなってきちゃったということでございまして、