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蒙し、市民の同意を得ていこうという、そういう試みの一つでもあったと私は思っております。

それから、だんだん時間がなくなりましたが、最後に酸性雨と公害に対する対策という問題です。これは従前の文化財の保存の中にほとんどなかった視点だと思います。ここで言いたいのは、野外の文化財についてどう見ていくか。私は、東京国立文化財研究所というところに数年前、しばらくおりました。そのときのプロジェクトの一つとして、当時、アメリカの自由の女神の酸性雨、あるいは塩害等が問題になっているなか、日本でもそういう問題が必ず起きているということで対応したものです。一つの実験的な試みでもありますが、いわゆる露座になっている、つまり青天井のもとにある鎌倉大仏です。実験を始め、調査を始めたところ、予想どおり、酸性雨による影響を受けているわけです。もうブロンズも悪性の錆が発生しているんです。

私は、対策としてあれは覆屋で囲いたいと思っております。皆さんの賛同が得られるかどうか。しかし、恐らく覆屋で囲うと言ったら、ものすごい反発を受けるでしょうね。だって、美男におわすというのは、あの露座にあって、青空のもとにあって存在感があるわけですね。だけど、江戸時代まではちゃんと覆屋に入っていたわけなんです。

だから保存の手法として必ずしも国民の同意を得られない方法も出てくる、保存のためには。覆屋で囲ってしまったら、多分ここの朝日新聞を初め、マスコミなどからたたかれると思うんです。(笑)だけど、やっぱり保存をしていくときに、酸性雨を防止するにはそれしかないんですよね。いや、表面をコーティングしたらいいじゃないかという、そういう考え方もありますよ。だけど、それは合成樹脂等でコーティングすることによって、もう非常に怪しげな光沢を発する、変なもういやらしい、何ていうんですか、ぬれ葉色の変な色になる可能性もあります。

そういう点で、大きな課題を抱えておりますが、しかし、こういう問題は今の世の中で、今後、どんどん出てくる課題だと思います。そのために、今、何が必要かといったときに、これからの文化財保護の流れの中では、例えばそういう公害等に、文化財の行政側は公害を防ぐ力を持っておりません。それは多分環境庁だとか、そういうところの縦割りだなんて怒られるかもしれませんが。だけど、それに対して防御するには、例えば保存科学が必要になってくると思います。文化財の世界って、みんな大半の人は人文系、歴史学や考古学や美術史をやった人が多いように、私自身、確かに考古学が専門なんですが。しかし、科学の人たち、いわゆる自然科学、地球物理の人たち含めて、そういう保存科学の世界というのがこれから文化財の世界にどんどん入ってこなければならない一つの流れではないかと、そんなふうに考えております。

五つの新しい今後の問題点、あるいは視点というのを挙げましたけれども、まだまだたくさんの課題がございます。今後も私たちは文化財の保存という視点で、環境あるいはナショナル・トラストというこの運動に大変関心と興味を持っていきたいと、そんなふうに思っております。どうもありがとうございました。(拍手)

 

 

 

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