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だって、あるいは東北の社寺へ行ったってありますよ、九州へ行ってもあるわけです。日本人はそういう保存の努力をずうっと、継承してきた。

ヨーロッパでせいぜいあるのは何世紀ぐらいだとお思いですか。ぼくなんかちょっと悪口で言えば、せいぜいルネッサンスからでしょう。だって、まあ、ちょっとひいき目に見たって十字軍の終わりぐらいだと思うんですよ。出土品は別ですよ。いや、ギリシャやローマのものがいっぱいあるじゃないかとおっしゃるかもしれない。だけど、あれはみんな出土品なんです。

ヨーロッパのすごいところは、18世紀や19世紀にギリシャやローマのものを掘り出して、それを捨てないで、ちゃんと学問的に位置付けながら今日にしっかり評価のできる形で伝えてきた、その保存の努力はすごいと思うんですよね、もちろん、石造であった建造物は別ですが。ともかく7世紀代からのものが今日まで息づいているのは、まさに日本だけとって良いでしょう。そういう努力を日本人はやってきたし、やってこれたんですね。もちろんその背景には宗教的な問題や貴族、僧侶という文化の担い手のこともあります。

しかし文化の担い手は何も貴族だけではなくて、庶民も町民も商人も、みんな一生懸命そういうものを創造し保存してきたわけでしょう。例えば土蔵を持って、そこの中に大事なものを保存するその形はずっと近年まで続いたわけですが、少なくともそういう流れや考え方を、文化財の種類や位置づけが異なっても日本遺産の中でも位置付けていかなければならないんではないかと思います。

文化財は保存するだけではなくて、活用へいかに図っていくかが恐らくこれからの新しい展開だろう。つまり、古社寺保存法からの100年間の文化財の努力は保存の努力だったと思います。しかし、現在、全国に1300館以上の博物館や美術館等がございます。しかし、その中でどういうふうに活用していくか。その中だけでなくて、マチづくりやムラづくりの中でどのように活用していくか。これは文化財の世界でのこれからの新しい視点の一つだと思います。

保存するなら、どこか暗いところに入れて、涼しいところに入れて、見せないでそうっとしておいたらいいわけですよ。だけど、そうではなくて活用しながら保存するという視点がこれからの文化財保護の恐らく新しい視点であり、その手法について今後、考えていかなければならない大きな課題だと思っています。

その試みの一つといっていいでしょう。たまたまではあったんですが、日仏文化交流の中で、あの法隆寺の百済観音をパリで展観してみました。そして帰国展を昨年の暮れに行い、10月までの間、あとほかに5会場に限りますが、百済観音が全国を回る予定です。これは文化財保護の指定制度100年を記念してという背景がありますが。

しかし百済観音はさまざまな意味で特別の美術品です。恐らく美術史の人たちから見たらすごい顰蹙(ひんしゅく)買うんではないかと。あんな大事なものを、あんなに公開しちゃっていいの? そうでなくて、公開することによって理解を得る。あれはフランスでは大変理解を得た。その代わり、来年度はドラクロアの「リベルテ」が来る約束になっておりますけれども。お互いの持っているそういうものをしっかりとした保存を背景に交流、公開しながら、相互の文化財保存の視点をしっかりと認識して、また啓

 

 

 

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