日本財団 図書館


な油、大体文化財と油なんて、もう水と油の関係そのものみたいなもので。だけど、グリスにまみれて新しい保存修復技術も作っていかなければならない。

そういう中で、このナショナル・トラスト運動の提唱の中にあった、例えば動態保存、動かしながら保存するとか、動かしながら活用するとかというようなことも今までの文化財にはなかった視点、そういうのがこれから出てくるんではないか、あるいは生活文化財にまで保存の対象を広げたとき、そうした対応も今後の大きな課題だと思います。

それから3つ目に文化財の総合的な保存のあり方という問題があります。ここでは日本遺産という言葉を使って強調したいと思いますが、現在の文化財の保存は、先ほどから田村先生からおしかりを個人的に受けているような感じがしているんですが、つまり縦割り行政の見本である、おっしゃているとおりそれは縦割りにならざるを得ない。保存の仕組みがそうなっているところにも問題があるでしょう。建造物の保存は建造物課がずうっとやる。史跡の保存は史跡の、例えばお城の保存はずうっと記念物課がやる。美術工芸の、つまり絵画とか彫刻だとかという保存はずっとそこがやる。横の連携は全然ないんです。全然ないわけじゃないんですが、オーバーに言えばそうなんです。

しかし、これからは、総合的な保存について、訴えたいのは、例えば日光の保存を考えてください。建造物は建造物で陽明門だとか指定されております。また二荒山神社からあの近辺、杉並木街道、あるいは上の方にある男体山、そういうところを含めて記念物として保存する。そうではなくて、やっぱり日光がある、そしてそこにはこういう建物や天然記念物がある、そして、そこでは民俗的な、芸能もある、あるいは書籍や典籍や古文書、工芸品の類も一緒にある、それらをまとめて全部保存する。そういう手法があっていいんではないか。つまり、それを私は日本遺産というような世界遺産に対しての例えば仮の言葉ですが、そうした保存の仕組み。今はみんな分野別であるだけに縦割り行政というような評もでてくると思います。

法隆寺の保存でもそうです。建造物の保存と美術工芸、あの中にある彫刻、絵画、あるいは文書という保存の仕組みは必ずしも連携しているわけではない。そうではなくて日本遺産、法隆寺として一本化していく、そういう保存のあり方、これは総合的な保存の今後の方向付けの中で考えなければならない課題だと思います。

つまり日本遺産というのは、ある面では日本人の持っている原風景の一つだというふうに思います。その中でさまざまな文化が創造されてきた。いわゆる借景を含めて保存してゆく。そういう一つの原風景に対する総合的な保存の取り組み方は、今後の必要となってゆく方向にあると考えております。

少し話が横道へそれるかもしれませんが、日本における伝世品の文化というのは大変なものがあります。伝世品は伝える世に品と書くんですが、世界の中で最も日本が誇れる文化財の保存の一つは、永い歴史の中でもまれながらも保存継承を行ってきたことにあると思います。つまり、7世紀から鎌倉、室町時代の各種文化財が当時のままの状態で、今日、残っているわけでしょう、日本は。欧米で、アメリカは別として、世界中にありますか、そんなの。7世紀のものが今日、息づいてそのまま。だけど、日本は別に正倉院を例に挙げるまでもなく、法隆寺だって、あるいは京都あたりの幾つかの社寺

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION