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期。もちろんこれは研究者によって随分違います、近代の評価というのは。中には明治維新から昭和20年の敗戦までと言う人もおりますし、そこは近代についての視点は随分違いますが、それを文化財という視点で見たときに、まさに新しく日米修好条約ができる直前から、そして現代と近代の境というのは高度経済成長の始まりが一つの境だというふうに思っております。

しかし、そういう中の文化財をどういうふうに守っていくか、どういうふうに保存していくか、これは非常に大きな課題です。ちなみに、現在、近代の文化財で指定されているのは建造物20棟なんです。そして美術工芸関係では約10件ぐらいです。記念物関係でも大体10件ぐらいです。記念物関係で言うと、これは明治百年を記念して、例えば明治用水や長崎造船所のこんにゃくドックを指定したりというようなことをやっております。しかし、近代は現在の我々の生活にある面では直接つながる部分も非常に大きく持っているだけに、今こそ、近代の文化財の保存について新しい目を向けていかなければならないんではないかというふうに思っております。

例えば昨年、広島の原爆ドームが世界遺産に登録されたわけですが、これを一つのきっかけとして、あれは近代遺産のある面では典型的なものだと思いますけれども、やはり近代についてどういう視点を持ってこれから臨んでいくべきか大きな課題だと思います。

ちなみに申しますと、広島の原爆ドームそのものがすばらしい史跡というわけではないんです。あれは負の遺産だと思います。国際的に言えば、例えばアフリカの象牙海岸、あるいはアウシュビッツの収容所、当然保存の対象になっているわけですが、その中に、まさに世界恒久平和を祈念していく、そのシンボルとしての原爆ドーム、そうしたものが登録をされる、当然日本としては史跡に指定する、そういう視点もこれから、入ってくるんではないか。もっと分かりやすく言いますと、いわゆる負の遺産も近代の中ではどんどん取り込まざるを得ないものがいっぱい出てくるように思います。

ただ、近代の一つの大きな特徴は科学技術だと思います。江戸時代の終わり、特に明治に入ってから近代の生活を大きく変えてきたのはやはり科学技術です。そうした科学技術。第1号の電気洗濯機、1号だけが大事というわけじゃない。だけど、非常にシンボル的にそういうようなことも行われる。第1号のコンピューターを保存していく、出てくる課題だと思います。

現に昨年、第1号の蒸気機関車が歴史資料として重要文化財に指定されました。このナショナル・トラスト運動の中で、いわゆる産業遺産の保存、D51なんかの保存等についても対応された時代があるかと思いますけれども。そういう流れを、つまり今まで我々は到底文化財と理解し難かったようなもの、こうしたものにも新しい目を向ける。つまり、文化財の裾野、あるいは文化財のジャンルを広げていく、そういう必要性が、今、出てきていると思います。

ただし、そういう中で文化財を保存していく中の非常に大きな課題の一つである、いわゆる保存修復、修理の面でも新しい技術の開発も当然必要になってきます。今まで掛軸や仏像とかはかなり伝統的な技術の中でやればよかったんです。しかし、蒸気機関車を修理するとなると、文化財の世界にはそういう職人たちはおりませんよ、今。そん

 

 

 

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