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持っていっても、今の法律の上では確かにあれは国宝、重要文化財、でも斑鳩のあの場所にあって初めて法隆寺。そういう点では、文化財というのは本来の場所にあってこそ文化財としての価値が2倍にも3倍にも高まるものだというふうに思います。

そういう視点からいって、いわゆる動産文化財の登録制度はまだ残念ながら入っていけない。これは過去にも大変苦い経験がございまして、いわゆる重要美術品というのは一種の登録なんですが、もともと古美術が海外にどんどん流失するのを防ぐ目的で作られた、昭和8年にできた制度があります。重要美術品等ノ保存ニ問スル法律という法律ですが、それはまさに重要な、ある程度のレベルにある作品を全部登録的に重要美術品に認定することによってそれらの美術品が海外へ流失することを防止しようという、あるいは輸出されないようにしようという、法律なんですが、それと同じ憂き目に遭うんではないか。つまり、国が認定したことで付加価値がつき、またそのために準国宝などと勝手によばれて、所有者が点々と変わり、その追跡にもう大混乱を起こしているわけです。そういう点でも動産文化財についてはなかなかこの登録制度というのは踏み切っていけない。

あるいは、じゃあ建造物以外の不動産文化財についてもやったらいいではないかと、恐らく皆さんお思いだと思いますが、不動産文化財についても難しい問題があります。世の中妙なものでして、国宝や重要文化財に指定されると一般的に価値が上がるようです。だけど、特別史蹟や史蹟に指定されると、土地価値は、逆に現状変更を制限されるということで下がってしまうようです。つまりそうした現象もございまして、なかなか土地の問題については入っていけない。しかし事実上、埋蔵文化財なんかの場合は、あれは登録文化財同然だと思います。つまり現在、周知の遺跡と言っているのが全国に約30万カ所以上ございますけれども、これなんかは事実上、台帳や遺跡地図の中にどんどん登録されていく。ある開発が行われようとすれば、その遺跡地図をもとに開発部局は教育委員会と協議をしなければならない。そういうことによって無差別な開発を制限しているという部分もあるかと思っております。

だから、必ずしも不動産文化財についての登録というのはやっていないわけではなくて、名称こそ違え一部やっている部分もあると申し上げられると思います。しかし、この登録制度については、先程示しましたように、建造物について、440件ほど登録しておりますが、さらに皆さん方のお知恵を借りながら、この順調な登録と、登録されたものがどういうふうに変化していくかということを辛抱強く見守っていかなければならない、これがこれからの文化財保存のまさに新しい視点の一つ、あるいは今後の進め方の新しい点の一つだというふうに思っております。

それからと二つ目に近代遺産の保存の問題でございます。これは皆さん方もそうかもしれませんが、文化財という名前がつくと古いものというイメージがあるかと思います。しかし、近代、もうぼつぼつ近代についての保存に本格的に着手してもいいんではないか。我々の周りもそうです。文化財という名前で保存されたものの中に近代の物件はほとんどないんです。と言い切っていいと思います。

私自身の近代の時代区分の視点をどこに置くかというと、私はペリーが日本にやってきた、つまり安政年間。そして高度経済成長が始まる前ぐらいの昭和30年代のある時

 

 

 

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