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そうしたことで、この登録制の導入にぜひ踏み切り、全国5万件ぐらいある、5万棟と言った方がいいかもしれませんが、とくに近代の建造物、あるいは構築物、工作物を対象として一斉に調査に入り、そして、その中の2万件ぐらいはぜひ登録をしたいということで、ほとんど1カ月に50棟ぐらいずつの登録を現在行っております。

もちろん登録制度は、ご承知のように申請制度とっておりますので、今までの指定制度とは別に、一方的に指定するのではなくて、所有者や地域から申請があったものについて対応しております。昨日現在、つまり1月8日現在で、実は昨日数十件の官報告示が行われましたので、440件の建造物等が登録文化財として登録をし終わったところです。もちろん今月も来月も、どんどんそれは行われていく予定です。

その特徴は、明治30年に古社寺保存法ができるころ、建築史の大先達の先生たちがその保存問題についていろいろ議論をした。その中でも伊東忠太という先生がお見えになりますが、先生は、建物は芸術なりという、そういう視点で、いわゆる指定制度のもとを作られております。しかし、建造物は芸術なりということで、現在、保存の対象を考えたとき、それは非常に限られてくると思います。それだけに、今、さっき申し上げたように、もっと裾野を拡大した形での保存の仕組みをつくってこれからは対応しようということで、例えば土木構造物、あるいは土木的な工作物、建物以外の建築物も、いわゆる登録の対象にしていく方向で進んでいるところです。

例えばごく最近ですと、横浜のMM21に、あそこに造船ドックがございます。そういうものも保存の対象にしていく、もっとも、これは重要文化財としての指定ですが、あるいはダムも保存の対象に、トンネル、道路、橋などが、従前の重要文化財とか国宝とか、なかなか考えづらかったようなものも登録の対象にしていく、つまり保存の裾野を広げるということを、実施しております。

それでは建造物だけで登録制度が達成できるかどうか。これは社会的におしかりを被らなければならない部分かも知れませんが、例えば不動産文化財以外の文化財、つまり動産文化財、絵画だとか彫刻だとか工芸だとか考古資料的なもの、あるいはそのほか古文書や歴史資料など、そうしたものも登録にしたらいいじゃないかというのは当然の声としてございます。

しかし、そのことでちょっと言いわけじみたことを申しますと、動産的な文化財は登録をすることによって、多分、価値が上がってしまうだろう、付加価値がつく。言い方は極端ですが、国に登録したから今まで5万円のものが50万円になるとか、つまりそういう経済的な価値が何となく、我々は文化財的な価値で見ているわけですが、しかし、それは残念ながら日本社会、これは国際的にそうですが、文化財的な価値をイコール経済的な価値に変えて読む部分もあるんですね。だから、動産文化財を登録することによって、どんどんあちこちへあるいはどんどん売却の対象になってしまう。

文化財は、ご承知のように、本来あるべき場にあって初めて意味をもつ場合もあるものだと思います。それは不動産文化財に限らず動産文化財でも今やそうだと思います。かつては建造物などの不動産文化財も、例えば明治村に持っていく、川崎の民家国に持っていく、それはそれで重要文化財や国宝として位置付いているものもあります。だけど、例えば法隆寺はあそこにあってこそ法隆寺だと私は思います。法隆寺を例えば明治村へ

 

 

 

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