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ただ、蛇足で申し上げますと、日本の文化財の保存制度は世界に誇るべき姿つまり、埋蔵文化財だとか、民俗文化財、無形文化財など、あるいはこれは誇るというよりも英国やフランス等がお手本になっているわけですが、重要伝統的建造物群の保存地区の設定まで現在の法律の中に入っているなど、さまざまな分野に及んでいる。いずれにしてもここでは日本の文化財の保存制度というのは指定制度にあるということを認識していただきたいと思います。

本論に入る前の前置きが長くなってしまいましたが、現在の社会的ないろいろな変革の中で、あるいは多様性を持つ今日の社会にあって、はたして指定制度だけで文化財が保存できるかどうかという点が大きな、今、課題になりつつあると思います。国は文化財保護法という法律をもって指定をする、あるいは都道府県では条例で指定をする。しかし、はたして指定制度だけで本当に正しい文化財の保存ができるかどうか。あるいは指定制度でカバーできない分野があるのではないか。そういう点が今日の大きな問題点として認識しなければならないし、またその新しい仕組みを何とか模索していかなければならない、そんなふうに考えております。そのことをきょう提案をしたい、また話したいと思います。そして実際に少しずつ入っている五つの項目にまとめてみました。

一つがここにもございますように登録制度の導入。それから二つ目が近代遺産に対する保護の新しい取り組み方。そして文化財の総合的な保存のあり方についての今後の課題。あるいは保存から活用へという新しい展開。今日、いろいろな形で公害というのが問題になっておりますが、公害からも文化財を守るという手法も作っていかなければならない。こういうような五つの課題、もちろんこれ以外にたくさんございます。いずれにしても、今日の指定制度をもう少し拡大し、あるいは指定制度から一歩踏み出して、新しく対応しなければならなくなってきているのがこれからの、あるいは今後の文化財の保護の取り組み方だというふうに私は理解しております。

最初の登録制度の導入について申し上げますと、これはご承知のように、現在、フランス、イギリスなどは、あるいはアメリカもこの登録制度を文化財の保存方法の中で取り込んでおります。平成8年10月から我が国も建造物に限って登録制度に、今、入っております。内部的にも外部的にもいろんな議論がありました。しかし、新しい保護の手法、あるいは新しい保護の仕組みとして日本も登録制度に一部入ってみようではないかという視点で、文化財保護法を改正して取り組んだところです。

これは建造物に限るというふうに申し上げましたが、建造物の現在の指定は、国宝が209件ございます。そして重要文化財になっているのが2151件ございます、今日現在で。しかし、はたしてそれだけを保存の対象にしていいのかどうか。もっともっと保存の対象にしなければならないものが、他にもたくさんあるんではないか。しかし、従前のように規制を中心とした保存の仕方では、もう地域で、あるいはそれぞれの個人の所有者等でなかなか受け入れられない。従って緩やかな規制でもって、そして芸術性が高いとか、歴史性がものすごく高いとかという、そういうつまり建造物や構造物としての裾野をもう少し拡大して登録制度に入ろうということです。当然登録物件については税制の対処もしましょうという取り組み、あるいは先ほど田村先生もおっしゃっていたように、いわゆるまちづくりの中でこれらを活用していく手法も考えなければならない。

 

 

 

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