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ていたけど、あれは神社だけじゃなくて、裏に山があるから、緑があるからいいんだって分かるんですね。あんまりふだん暮らしていると、何だか分からなくなっちゃって、当たり前なことになってしまうんです。

ナショナル・トラスト運動というのは、そういう非常に具体的な、目に見える形で問題を提起して、そこを大佛さんたちが八幡宮の裏山を市民の手で守るために、鎌倉風致保全委員会というのをつくり、最初にナショナル・トラスト活動をされたわけなんですが。そういう目に見える形で自分たちの地域環境を認識させたということは非常に大きいと思いますね。

今のまちづくりの方は、ふだんは税金を払っちゃっているのにあんまり感じないでいる。しかし、特定の問題になると感じさせる。ですからさまざまな運動があっていいわけで、ナショナル・トラストは歴史的環境と自然的環境等にしていますが、さまざまな環境についていろんなまちづくり運動も似たような形で私はあっていいんではないかなと思いますが。そういうものを具体的に呼び起こしたということは非常に大きいんではないかと思います。

まちづくりというのは異質多様な集団だって書きました。まちというのは、そもそもいろんな人間が入ってくるわけですね。いろんな商売の人も、いろんな考え方も、いろんな生活スタイルの方もいるんです。でも、ナショナル・トラストの方は一応会費を払ったり、いろいろ同好の士が集まってやっているわけですね。ここはちょっと違うかもしれないんです。

まちづくりという方は、いろんな人間がいますから同じ考えじゃないんですよ。そんな自然は保護したい、保護しなくたっていいじゃないか。この建物を保全したい、いや、そんな古くさいものは要らないじゃないかという人も、必ずいるんです。だから、ナショナル・トラストの方の人は、そんな人はいないかもしれませんけど、まちづくりという方ではあり得るんですよ。それより、おれはそんなものやるより、こっちの方がいいんだ、あっちの方がいいんだ、多様な価値観があるわけですね。

このまちづくりの中で多様な価値観があるということは現実なんですね。一人の人間の中だっていろんな欲望があるわけです。それをどうやって、どこで調整するかということが問題です。

しかし、それに対して一つの価値についてきちんとした評価をだれか言わないといけない。だれかがやってくれるよ、市長がやってくれるよく知事がやってくれるよ、橋本総理大臣がやってくれるよと思っているだけでは、だれもやってくれませんね。だから、主張する人はだれか主張しなきゃいけないんですね。その意味でナショナル・トラストは意味がある。だけど、ナショナル・トラストが言ったことがすべてそのとおりになるかどうかは分かりません。もちろん、なった問題はたくさんあります。でも、あるいはうまくいかないことも私はナショナル・トラストであり得るんじゃないかと思うんですよ。

しかし、それじゃあ全然意味がないか、そんなことはないと思うんですね。一つのこういうまちの中で、まちというトータルな環境の中で価値を主張した。主張したことがゼロになるということは絶対ありません。何らかの形で、それは現代の社会の中では、

 

 

 

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