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なって、そんなもん放ったらかしておけ、そんなことよりおれたちは儲けれゃいいんだということをイギリスもやったわけですね。

17世紀、18世紀、もう既に18世紀の初めころには世界の工場というふうにイギリスは呼ばれました。ところが、やってみるとさまざまな問題が起きてしまった。これに対してどうするか。国の方でもいろんな政策が行われました。例えば公衆衛生法なんていうのがありまして、都市を衛生的に住まわせなきゃいけないというような法律もできます。政府の衛生監督官のチャドィックが頑張って作るわけなんですが、どうもそれだけじゃ不十分だと、法律を整備しただけじゃない。

そこで起きてきたのがこのナショナル・トラスト運動です。さっきの市民の自発的な動きとして、産業革命以降の人類行動を反省して、そして自然とか歴史的遺産、自分たちの遺産をきちんとしようじゃないか、自分たちの手で守ろうではないか。産業革命のときには一方的にやり過ぎで環境的に考えてなかった。全体の連関の中で考えないと、いくら豊かになったといっても、一方で失われたものがあまりにも大き過ぎるということです。

その方法としては、まず意識改革をする。ナショナル・トラストの初めはまずそういうふうな気持ちになるということの運動がかなりあって、資産を取得するというよりも、ここに重点が絞られたようなんですが。次第にプロパティを持って、実際の財産ですね、それを取得して管理して活用していくということになったわけです。

イギリス人の場合に非常に具体的で、そして実践的なんですね。とにかくあんまり理屈ばっかり言ったってしようがない、やるならちゃんとやってみなければしようがないということで、極めて具体的な活動をしたのがこのナショナル・トラスト運動であると思います。

それの目的、じゃ何のためにやっているか。「しかるべきところにしかるべきものがある」というアメニティの思想もありますけれども、大佛次郎さんがおっしゃっのは「過去へのノスタルジーではなく、未来の市民の品格を高めるためである」ということを言われているんですが。ただノスタルジーで、昔、懐かしいな、それを置いておこうかなというんではなくて、それが残っていることによって未来の市民の品格を高めていくんだと、こういう考え方ですね。そこに自然がある。ただ懐かしい自然があったよな、ちょぼちょぼした木があったなというんじゃなしに、その自然があることが将来の市民の品格を高める、あるいは地域の品格を高める、こういうふうなことを考え、目的としているというふうに思います。

ですから単にそこに残すから残す、とにかく好きなんだというそれだけでは好きな人はいてもいいんですけれど、全体の多数派にはなりませんね。ごく少数の好きものがやっているということになるんです。

しかし、大佛さんの言う目的、これはそうではありませんね。好きものだけのためではなくて、将来の市民の品格を高める、あるいは地域の品格を高める、そういう風格のある町に住む。私の言葉、私は時々使うんですけれども、住むに値する町を作るのが本当のまちづくりだということを言うんですが、そういうことのためにやるんだということ、これは大佛さんが非常によくナショナルトラストを勉強して、よく咀嚼されて言っ

 

 

 

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