日本財団 図書館


から3年前にはオランダの会議に参加しました。ことしは4月にプエルトリコでありますが、そういうふうにしてお互いにそれぞれの国の経験を交流し合っていこうという国際的な運動が盛んになっております。

こういう運動の根底にある思想は何か、特にイギリスのナショナル・トラストの根底にある思想は何かといいますと、これはアメニティではないかと思っております。アメニティという言葉は今や日本でもいろんなところで使われるようになりましたが、19世紀の末にナショナル・トラスト、あるいは古い歴史的な建造物を守るための協会とか、ジョージアン時代の建物、あるいはエドワード時代の建物を守ろうとか、そういう運動をすすめる組織をアメニティ・グループ、あるいはアメニティ・ソサイエティーと言っておりますが、それらの根底にある思想はアメニティだと言われています。

アメニティという思想は、産業革命の時代に農村から都市部へ多くの人々が工場労働者として移っていったわけですが、その人々が非常に劣悪な生活環境の中にありました。そういう人々を救済しようというので、イギリスの自治体で働いている都市計画あるいは住宅政策の担当の人々の間から生まれた価値観だと言われています。それがもう今200年たってイギリス国民共通の価値観になっているということであります。言葉ではどうも説明しにくいと。しかし、アメニティと言えばツーカーで分かるとイギリスの人々は言っております。そういうふうに都市計画の本などに書いてあります。

これは単に一つの価値ではなくて複数の価値を集めたものだ。例えば自然もいい、公害もない、歴史的環境もきちんと保全されてあると、そういういろんな複数の価値がある。しかるべきものがしかるべきところにきちんとあると。その価値は数量化を超えたものだと。数字で、あるいは貨幣価値では表現できないけれども、それがそこにあることによって、しかるべきものがしかるべきところにあることによって人々の心が和むと、そういうものがアメニティだと言われています。そういう環境を守ろうという形でスタートしたのがイギリスのナショナル・トラストです。ですから、最初から自然環境と歴史的環境を一体として幅広くとらえているのが特徴であります。

先ほど日本でもこの30年間、公害から自然破壊、歴史的環境というふうに広がってきたと申しましたが、まさに日本的風土に根差したアメニティというものが形成されつつあるといえましょう。そういうところで日本でもナショナル・トラスト運動が起こるべくして起こったのではないかと思っております。

話をもとに戻しますと、鎌倉で作家の大佛次郎さんたちが古都の歴史的景観の破壊を心配されて、たまたま大佛さんが英国大使館の人から送っていただいたパンフレットでナショナル・トラストということを知って、それをもとにして財団法人鎌倉風致保存会というものができました。昭和39年、東京オリンピックのころであります。そして広く市民に寄付を呼びかけた。たちまち当時の金で1500万円集まって、それで住宅にしようとしていた御谷〈おやつ〉の土地を市民が買い取ったわけですね。その住宅建設は未然に防止することができたわけであります。

大佛さんの新聞に出た随筆を見ますと、そういうナショナル・トラストのことを書くと同時に、将来も京都、奈良、鎌倉といった日本の古都が危機に瀕していると。特別の法律を作って保護しなければ取り返しのつかぬことになるということが書いてありま

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION