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と申しますが、これによって国民は安心して寄付をするようになったわけであります。

最近でも、この譲渡不能の特権ということと開発事業との間でフリクションといいますか、トラブルはかなりあります。例えばウエルズで、地下に人工衛星をフォローする軍の基地を作ろうというのに対して、たまたまそこがナショナル・トラストの資産、土地だったために、そういうところに作らせていいのかということでトラストの総会でも論議を呼びおこしました。これはもう10年近く前の話ですが。そのほか、例えば北海油田の精油所の海岸がスコットランドのナショナル・トラストの所有地であったのです。それをどうするかということも論議を呼びました。そういう国民のオープンな論議の中で環境が守られていることもまたすばらしいことだと思っております。

ナショナル・トラストといいますが、このナショナルというのは国家のという意味ではなくて、国民のという意味だということを強調しています。ナショナルというのは多義的で、ナショナリズムというのは国家主義とも民族主義とも、あるいは国民主義ともいろいろな、その場によって翻訳が変わりますが、ここでのナショナルというのは国民のという意味だということであります。そして、「一人の人の1万ポンドよりも1万人の1ポンドずつを」と、非常に多くの人々の寄金を求めていくという方策をとっています。

しかし、企業からゴソッと大きな寄付を受けるということにも熱心でありまして、このことにつきましては明日、午前中、二人目の講師のスーザン・ウィルキンソンさんから詳しい報告があると思います。ウィルキンソン女史はイギリスから、このために昨日、お着きになりました。英国ナショナル・トラストの資金調達局長、ダイレクター・オブ・ファンド・レージシダです。ぜひそれをお聞きください。

そういうことで、これまで100年の間に歴史的な建物が200以上、それから広大な庭園が230、あるいは美しい自然海岸が550マイル、600キロ以上もナショナル・トラストが買い取っています。それを保存するだけではなくて、それを活用、公開しているわけです。ナショナル・トラストの原則はやっぱり保存と公開、利用という、この二つを非常にバランスよくやっているのが特徴であります。

このほか産業革命時代の鉄橋とか、あるいは運河とか、あるいは村落全体を保存しているというところもあります。その総面積は、日本で言えば大阪府の総面積と同じだとよく言われていますが、ナショナル・トラストはそういうふうな広大な土地所有機関になっています。

そういうことになった一つの大きな力になったのは1931年ごろから、日本で言えば昭和6年のころからです。税法を改正しまして、ナショナル・トラストに寄付した人は、その金額はその年の所得税の対象から控除すると。企業が寄付した場合は、その金額をその年の法人税の対象から損金扱いとして控除するということになりました。さらにまた今度は相続法を改正して、ナショナル・トラストに先祖代々の立派な建物を寄贈した人は相続税を免除すると。その建物の一部に代々住み続けることができると。2代目までは無料と。3代目からはテナントとしてナショナル・トラストへ家賃を払うと。そして、そこに住むことによって、自分たちの先祖から引き継いだ建物はこんな立派なものだということを訪ねてきた人たちに説明すると。ボランティアでガイドするということ

 

 

 

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