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日清戦争のころですが、スタートしています。3人の市民によってです。その中心になったサー・ロバート・ハンター、サーの称号のつく弁護士さんですが、この人は非常に温厚な人で、しかし、決断力と構想力のある人だったそうであります。この方が産業革命でイギリスの国運は進展したけれども、一方で国民の誇りとする自然や歴史的な建物がどんどん壊されていくと。これに対してどうして守ろうかと考えました。これはもうみんなで買い取って保存する以外にないということに気づかれて、知人のオクタビア・ヒル女史にその考えを伝えられたわけであります。

オクタビア・ヒルという方はイギリスの住宅改良運動にとりくまれ、住宅史の上では非常に有名な方であります。貧しい人々にさわやかな空気と太陽の光を贈ろうと。それには住宅の環境をよくするために住宅法を作ることが必要だと言ってその成立に努力されたわけであります。オクタビア・ヒル女史はこのサー・ロバート・ハンターの意見に感動されて、じゃ一緒にやりましょうということになったわけであります。

オクタビア・ヒル女史の伝記を読みますと、イギリスで19世紀の社会活動で代表的な女性が二人いると。一人はナイチンゲールです。ナイチンゲールはご存じのとおり、病人あるいは戦争で傷ついた人をいろいろ助けたわけでありますが、博愛主義で。ナイチンゲールは人が病気になったり傷ついた、その後でそういう人たちを救済しようとした。これに対しオクタビア・ヒル女史は、人々が病気になる前に、ならないような立派な住宅環境を作るために頑張った女性だと、そういうふうに言われております。

それからもう一人、3人目は、キャノンというのはイギリス国教の牧師の称号でありますが、キャノンの資格を持つハードウィック・ロンスリーという人であります。この人はイングランドの北西部の湖水地方で湖水の美しい景観の保護運動に取り組んでいました。行動力があって弁舌さわやかな人だと言われていますが、この3人の話し合いからナショナル・トラスト運動はスタートしました。

それからもう103年なりますが、私が初めて行ったときはちょうど70年目のころでありました。会員が当時は25万人、一人、3ポンドずつ年会費を払って頑張っておりました。

最初は、スタートしたころは1895年ですが、まだ多くの人もそう興味を示さなかったんです。ですから自然や歴史的環境を守ろうという啓蒙的な段階にとどまっていたんですが、1907年にイギリスの議会が法律を作ったわけであります。ナショナル・トラスト・アクトすなわちナショナル・トラスト法という法律を作って、ナショナル・トラストはこういうふうにして、国民が国民のためにお互いにお金を出し合って、国民の貴重な環境を買い取って保存するんだということを法的に認めた。さらに譲渡不能の原則というものを確立したわけであります。つまり、ナショナル・トラストが国民から寄金を集めて、それで買い取った土地や家屋、そういうものは絶対に売り飛ばしてはならないと。これは当然のことですが。それから、それを抵当に入れてお金を借りるということもしてはならないと。そして、さらにこれは非常に大切なことですが、政府といえども、議会の同意を得なければナショナル・トラストの資産を強制収用することはできないという原則を法的に決めたわけであります。このためにナショナル・トラストが買い取った資産は未来永劫に保存されるということが法的に保証されました。「譲渡不能の原則」

 

 

 

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