「ナショナル・トラストとアメニティ」
木原啓吉 当協会副会長 千葉大学名誉教授 江戸川大学教授
司会 それでは午後の部を開催いたします。午後1番目には、「ナショナル・トラストとアメニティ」ということで、私ども社団法人日本ナショナル・トラスト協会の副会長で千葉大学の名誉教授、さらに江戸川大学の教授であります木原啓吉が講義をいたします。ナショナル・トラストのお話が午前中にあまりなかったので、ナショナル・トラストって何だろうと思われていた方がおありかもしれませんが、こちらでご紹介を申し上げます。では、木原先生、お願いいたします。(拍手)
木原 私はこの会場の建物は非常に懐かしいんです。と申しますのは、16年前まで朝日新聞に勤めておりました。政治部で環境問題担当の編集委員をやっておりました。昭和30年代の半ばから日本は公害が激しくなって、水俣病や四日市ぜんそくなど、また四大公害裁判の報道に取り組んでおりました。
その後、環境庁が発足しまして、環境庁の記者クラブを根拠地にしまして、日本国内及び国際的な環境問題の動向の報道に当たってまいりました。昭和47年には人類が初めて地球的規模の環境問題に取り組んだストックホルム会議つまり国連人間環境会議の取材にもあたりました。
その後、千葉大学、それから現在の江戸川大学で学生に環境政策論を教えております。私の務めとしましては、そういう環境問題について、政府と自治体すなわち行政はどういうふうなことをやるべきか、それから住民はどういう動きをするか、その間のブリッジ役といいますか、橋をかけることが務めではないかと思っております。ですから環境庁の中央環境審議会や自然環境保全審議会の委員として環境行政にいろいろ意見を申し上げるというのと同時に、ナショナル・トラスト運動とか、あるいは水環境を守る水郷水都全国会議とか、全国町並み保存連盟の仕事などもボランティアとして取り組んでまいりました。
そういう中の一つとしてナショナル・トラストと取り組んできたのですが、私はそれぞれの国の環境問題というのは、そこに生きる国民あるいは住民がどういう目で環境に取り組んでいるかということによって決定づけられると思っております。
日本では、住民が自分たちの地域の環境に、大気が汚れている、あるいは水質が汚濁しているというようなことを見つけますと、まず身近な自治体に働きかけます。自治体はそれにこたえて条例や指導要綱などを作って対応します。そういう条例が各地に広がったところで国が法律を作って、これに対応する。住民・自治体・国という順序で展開してまいりました。
それは明治以来の日本の行政が、まず国が法律を作って国の政策を打ち出し、そして、それを実施するため、自治体に条例を作らせ、そして国民にそれを守らせるという、国・自治体・住民とトップ・ダウンでやって来たのに対して、環境問題が起こって、それではどうしても解決できない、住民・自治体・国という草の根のところからボトム・アップといいますか、草の根から攻め上げていくというのが日本の環境政策であると思っています。その点では明治以来の行政の仕方を環境問題は転換させたという点で注目すべきものだと思っております。
ですから、私はその原点である住民がどういう目で自分たちの環境を見つめてきた