すばらしい邸宅、それから庭園、これが約200年前ぐらいに建造された、造営された古い資産家の家なんですね。当時、未亡人がずっと住んでおられたんですが、その未亡人が亡くなった。亡くなる遺言でもって、その邸宅と庭園をナショナル・トラストに遺贈する、寄贈するということになりました。
ご承知のように、イギリスでは法律ができておりまして、ナショナル・トラストに遺贈した、その財産は相続税がかからないのです。この相続税がかからないということが一つの大きな問題なのです。大変な相続税ですから、大きなすごい金持ちとか、また昔の領主、そういうものが相続税でもって全部売り払っちゃうんですね。そうしないと相続税を払えない。そうすると、それをみんな買って、みんな開発してしまう。そういうものを防ぐために邸宅とか庭園、すばらしいものについてナショナル・トラストが買い取るということ、あるいはまた寄付を受ける、そうすると相続税を払わないで済む。
ナショナル・トラストの方は、それを管理するために、寄付してくれた方、あるいは遺族、その方々はそのままその屋敷に住んでもらっておくんですね。所有権はナショナル・トラストが持っているんです。管理する人は、むしろその家族がそこに住んだままやってくれると、こういうことになっておるわけです。
そういう関係でもって、私が行きましたポールスデン・レイシーというのは約200年前に作られたすばらしい邸宅と庭園なんです。それは一体ふだんどうしているかというと、管理人とか庭師のほかに登録してあるところのボランティアが90人。それが、延べ数といったら大変なものです。また、そのほかに登録していないボランティアも来て、いろいろな管理を手伝っているわけです。そういうようなことで維持している。
夏は、これが非常にすばらしい庭園なものですから、庭園で野外劇、シェークスピアの野外劇などを毎年やっているようでございます。入場料を6ペンス取っているんですね。それから建物の中には美術品などがたくさんあるもんですから、建物に入るにもまた8ペンスのお金を取っているんです。それでも年間、何万人という入場者があるということをお伺いしたわけでございます。まあ、私は、こういうような制度が何とか日本に根付かないものかなあと思ったわけでございます。
その翌年、1983年にはスコットランドのエディンバラ市に行きました。スコットランドは別に独立したナショナル・トラスト、スコットランド・ナショナル・トラストというのがあるというんで、エディンバラにあるスコットランド・ナショナル・トラストの本部に行っていろいろお伺いしました。そして今度はいわゆる町並み、ちょうど妻籠みたいな感じですが、町並みの遺産を拝見しようと思って、ナショナル・トラストの所有している、これは海岸の小さなカルロスという町、そこにリトルハウスと称しているんですが、海岸の町並みがありました。これまた何百年か続いている町並みをナショナル・トラストは買い上げて、そしてそれを残しておくということをやっておりました。私、何となく、そう変哲もない町並みのように感じたんですが、やっぱりイギリス人にとってはそういう遺産というものは何とかして残しておきたい古い港町の町並みなんだと思いました。船が入ったときに見る望楼みたいなものがある、そういうリトルハウスというものを中心にした小さな町並みを残しておきたいと、こういうようなことを拝見してまいりました。