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(3) 市区レベルでの二重権力

 

日本の地方自治制度においては、大都市の区分割は、次のように行われる。?東京都23区(特別区)の場合、区議会と公選区長を持つ自治体としての区が存在する。?政令指定都市の場合、市は区に分割されるが、その際の区は、議会も公選区長も持たず、市庁の出先機関にすぎない。ソビエト制下では、市区は、議会(ソビエト)、独立した予算と執行機関を持つ一種の自治体であった(93)。1993年にソビエト制が廃止されて後、1995年8月に採択された「ロシア連邦における地方自治組織の一般原則に関する」連邦法は、都市内の市区にどのような地位を与えるか(たんなる行政区画とするか、それとも区議会と公選首長を持つ自治体内自治体とするか)を当該市の自主性に委ねた。しかし、圧倒的多数の都市は、区に議会も公選区長もおかず、区行政府を市行政府の出先機関とする、日本の政令指定都市型の選択をした。人口800万のモスクワ市でさえ、この点では同様である。このように市区の非自治体化が急速に進んだ理由は、?1990年代の中盤には一層制自治の方が多層制自治よりも民主的だという観念が強かったこと、?中間リーダーの台頭を恐れる市指導者の思惑、?こんにちの厳しい財政状況下では市単一財政を形成した方が経費と人員の節約になると考えられたことなどがあげられよう。しかし、決定的なのは、多くの場合、住民自身が市区を不可欠の自治単位とは感じていないことである。

こうした全国的な趨勢をみれば、ウラジオストク市において市区の位置づけがいまだに係争問題となっていることは奇異である。ここで注意しなければならないことは、行政区画の位置づけにおいては「遠交近攻」関係が不可避であるということである。たとえばソ連崩壊過程においてゴルバチョフは、分離傾向を強める連邦構成15共和国を掣肘するために、ロシア共和国内の自治共和国の地位を高めようとした。1992-93年頃、連邦権力がリージョン権力を掣肘するための楔としてリージョン首都の権力を利用しようとしたことには既に触れた。こんにちにおいても、スヴェルドロフスク州や多くの民族共和国のようにモスクワとの関係ではオポジション(フェデラリスト)であるリージョン権力は、概して域内の地方自治体には残酷な態度をとっている。ここには、EU形成過程におけるEU政府、国、地方自治体の間の三つ巴の関係に類似した関係がみられる。ウラジオストク市の市区改革をめぐって展開する関係もまさにこの例であって、クライ行政府は、チェレプコーフ市庁を掣肘するために市区自治(市区ボス政治)を擁護してきたし、逆にチェレプコーフ市庁は、市区自治を廃絶してクライが市政に干渉する道を塞ごうとしてきたのである。市単一財政の導入は、公共サービス、つまり暖房、給湯、電気、ガスなどの供給機構(zhilishchno-kommunal'noe khoziaistvo)の改革と並

 

 

 

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