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も肝心なのは《創造的合意形成能力》である。創造的合意形成能力は、個々の人間の柔軟な思考編成能力とそれを協働させるしなやかなコミュニケーション能力とが複合したものである。どちらも、《協働》を経験・学習することによって鍛練され発展する。だとすれば、規模はある程度を超えればそれほど重要ではなくなる。むしろ、分権化の推進によって、創造的合意形成能力の発展を妨げている制度的規制や財政財源の量・使途に関する制約を取り除いて、協働の機会を創出することの方が重要になってくる。分権化はそのための分権化でなければならない。しかし、それだけではだめである。政治コミュニケーションを創造的生産的方向に活性化する社会的工夫がいる。すなわち、制度環境を、コミュニケーションの協働と競争が創造的合意形成を促すように整備しなければならない。情報公開はそのような制度環境の基礎である。この基盤の上に、規制緩和と協働支援的諸制度の整備が進められれば、価値創出型社会への転換が起こる。協働支援的諸制度について論述する余裕はないが、要するに協働を阻害するさまざまな制約を克服しやすくする仕組みである。たんなる競争の促進は、互いの足を引っ張り合う非生産的競争を助長しかねない。競争促進と協働促進とが相俟ってはじめて、社会はゼロサムの競い合いからプラスサムの競い合いへと転換する。本稿は、基礎自治体に焦点をあてて、そのような価値創出型社会への転換について論じた。地方分権の推進は自治体行政の競争促進である。しかし、それは創造的合意形成能力を涵養する方向での分権推進でなければならないし、それを促す制度環境の整備がともなわなければならない。

 

(深谷昌弘/慶應義塾大学総合政策学部教授)

 

*本稿は、月刊『地方税』1997年11月号(地方財務協会)に掲載された拙稿を大幅に加筆・修正したものである。なお、人間のコミュニケーション、協働(コラボレーション)及び地域社会づくりについては、以下を参照していただきたい。

深谷昌弘・田中茂範『コトバの《意味づけ論》』紀伊国屋書店、1996

同上    『情況編成・コトバ・会話―意味づけ論の展開(仮題)―』紀伊国屋書店、1998(予定)

深谷昌弘 「未来を協働創出する営み―まちづくりと合意形成―」『季刊TOMORROW』第11巻第4号(通巻42号)、(財)あまがさき未来協会、1997.3

 

 

 

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