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国のある大手大企業が取締役の人数を大幅削減して話題になった。この狙いは重役会議の効率性と創造性を高めることにある。また、コンピュータ・ソフト開発の最大手企業が独立性をもった多数の小規模チームと連携したプログラム開発で大きな利益をあげていることが注目されている。小規模チーム内の協働とチーム間の競争のミックスによって一層創造性を高める試みである。民間のこうした試みを公共的諸決定に応用できないだろうか。民主主義の公共的決定は主権者多数の支持・承認を必要とする。首脳陣さえ決断すればよし、というものではない。パブリック・コミュニケーションによって不特定多数の市民の納得を得なければ公共的合意として成立しない。ここに政治的なパブリック・コミュニケーションの特徴がある。国レベルであれ自治体レベルであれ、市民の合意調達を含めたパブリック・コミュニケーションは、確かに、相当大規模なコミュニケーションである。小規模自治体といえども、合意はかなりの人数の納得を必要とする。ただ、小規模コミュニティでは、人々が互いに顔見知りで気心も知れているということがある。したがって、優れたリーダーがいれば合意がまとまりやすい。前節の事例ではこのことも成功因の1つだったにちがいない。しかし一般論として、政治的なパブリック・コミュニケーションは、互いに顔見知りとはかぎらない不特定多数の市民たちが合意形成しなければならないところにその特徴がある。

このような特徴をもった《パブリック・コミュニケーション》を創造的・生産的に機能させる方途はないのだろうか。先の民間企業の試みは、大規模性がけっして絶対的障害ではないことを示している。特に、協働と競争をミックスする後者の例は、パブリック・コミュニケーションにとって大いに示唆的である。自治体の部局や地区組織の意思決定をコミュニケーション協働が可能なように再編する。政治的対抗勢力にも代替案の策定が容易になるようにする。そうすれば、少人数による創造的な政策策定が、自治体機構内及び地域社会で競い合う状態をつくりだすことができる。最悪なのは、多数の組織利益の代表者たちにこの作業を委ねることである。組織代表という枠取りが人間の発想・思考の柔軟性を制約してしまう。専門的な知識・経験を活かす個人として参画することがコミュニケーション協働の要諦である。それなのに、これでは二重に創造性を束縛してしまう。政策の策定作業を担当する委員会規模を過大にしないこと、各委員に個人として自由・闊達な発現を要請すること、いずれも可能なはずである。また、政治的自由

 

 

 

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