[一般事例]仕事も福祉もお年寄りの手でヘルパー・講座・農作業・・・
東京都武蔵野市
高齢者協同組合全国10カ所…………
高齢者が少しずつ資金を出し合い、「仕事も福祉も生きがいづくりも高齢者自身の手で」という趣旨の高齢者協同組合(高齢協)が各地に広がりつつある。昨年2月の三重県を皮切りに、今月14日には全国で10番目の組合が東京で設立された。組合員はまだ全国で公称8千人と多くはないがくホームヘルプや配食サービス、各種の講座の開催から農作物の栽培まで、さまざまな事業が開催されている。高齢者協同組合の母体となったのは日本労働者協同組合連合会(労協)の理事長で東京高齢者協同組合副理事長らによると、労協では清掃や草刈りからヘルパー事業などさまざまな仕事をしているが、高齢になった組合員にもできる仕事の確保と、福祉や生きがいを実現する場の必要性から高齢者協同組合を作ったという。
東京都武蔵野市でホームヘルプサービスの仕事場を訪ねた。夜8時半、一人暮しのA子さん(86)宅。台所で夕食の後片付けをしているのは組合員のIさん(66)だ。脚が不自由で台所に立てないA子さんにかわって後片付けや翌朝の準備などをし、高さ30cmほどのベットに引き上げてあげる。時間にすると1時間にもならないが、毎日欠かせない仕事だ。「昼間は市から派遣されたヘルパーさんがやってくれます。寝るときも、少し前までは自分でベットにはい上がれたんですが、できなくなって」とA子さん。武蔵野市周辺地域で労協と、高齢協が運営するホームヘルプサービスの責任者(62)によると、登録しているヘルパーは20代から60代までの36人。高齢者協同組合はまだできたばかりで、当面は労協の仕事になるが、短時間の仕事や、一人暮しのお年寄りの話し相手などは高齢協の仕事にしていきたいという。東京での同じようなホームヘルプは北区や町田市でも行われている。計画中のものとして、故人の思いを尊重した葬送についての教養講座と関連事業などがある。一方、昨年9月に設立された愛知県高齢者協同組合。事務局のある名古屋市中区の高齢者労働会館ではワープロ講座が開かれていた。
この日の午後の受講者は4人。その1人(75)は「ここは小人数で、先生が手を取るように教えてくれるので一番いい。」講座は、ほかにダンス、英語、中国語など。ホームヘルプサービスも実施しており、11月からはデイサービスも開設予定だ。ほかに高齢協があるのは沖縄、福岡、長野、北海道、神奈川、阪神、山形。ホームヘルパーの養成講座を開いたり、高齢者への配食サービスをしたり、休耕田などを栽培したりとさまざまだ。組合員の出資金は1回5千円のところと1万円のところがある。
日本労働研究機構首席統括研究員の話
企業の理論から離れて、自分たちに必要な物を作ったり、働く場を作ったりする動きとして注目される。これから高齢者の働く場の確保は、企業の論理による定年延長だけでは間に合わなくなる。ただ問題は、規模が少し大きくなったときに当初の論理を守りきれるか、企業との競争で企業と同じようになってしまわないかだと思う。
(朝日新聞 1996.09.26)