イ 属性別の傾向
人口移動は一般に15〜30歳代位までが活発だといわれている。15〜30歳代の移動は、高校や大学を卒業した後の就職・進学や、就職後の転職などを大きな契機としていると考えられる。そこで、ここでは大都市圏の転入原因の中心である就職を契機とする移動の動向をみる。
文部省の学校基本調査によると、新規地方高卒生の東京圏への就職は毎年6〜8万人いる。ただ、工場の地方分散などによる地方での就職機会の増大に伴い、近年東京圏への就職者数は減少している。
次に、新規大学卒業生の就職地域については、大学が集中している東京都内に立地する大学を卒業した人のうち、70%以上がそのまま都内に就職している。ただ、これは新卒者の意向をそのまま反映しているというわけではなく、むしろ新卒者は近年希望配属地域として出身地あるいはその近辺を希望しているという国土庁の調査結果も出されている。
(3) 近年の地方圏の転入増加の動向
1993年から地方圏が転入超過となったが、これはバブル経済崩壊で東京圏の企業が従業員の採用を絞ったこと、不況の長期化に伴う企業のリストラによる人減らしとUターン、不況の影響で東京圏に出る大学生や大学浪人生が減少したこと、ふるさと志向の高まりなどが要因とされている。
ただ、今後も東京圏から地方圏ヘ人口移動が続くのかどうかは見解が分かれるところである。製造業雇用の地方分散、交通・通信手段の発展、自然に恵まれた良好な生活環境などの諸条件は、潜在的には地方圏への人口誘導にプラスに働くことが推測される。しかし、今後の製造業空洞化、公共事業の削減、過疎化に伴う商業・サービス業の衰退などにより地方において雇用不安が生じる可能性もあり、見通しを立てることは困難である。
(4) 地方圏における地方中枢・中核都市圏への人口集中の進展
また、地方圏において、地方中枢・中核都市圏と中小都市・農山村と分けて考えた場合、人口吸引力には大きな違いが現れている。
1960年代以後、札幌・仙台・広島・福岡に代表される地方中枢都市の都市圏が成長を続けた結果、これらの都市の地方ブロック単位における人口吸引力の強さが近年明確になっている。工業の地方分散や経済のサービス化といった動向によって、地方圏における雇用が多様化し、地方中枢都市圏に地方ブロックを統括する中枢管理機能が集積し、その集積量はその地方ブロックの他の都市圏の追随を許さないほどに大きいという点をふまえると、地方中枢都市圏への人口集中が今後も弱まることはないと推察される。
地方中枢都市圏が地方レベルで果たしている役割を少しスケールを小さくして、県レベルで果たしているのが地方中核都市圏である。今日では、県庁所在都市を中心とする都市圏の人口吸引力は、各県内で最大であることが多い。ただ、地方中核都市では、中心市街地の空洞化や郊外への人口分散といった問題をかかえており、今後成長を続ける都市と、衰退に転じる都市とに分かれると考えられる。
一方で、有力な経済基盤をもたない地方の中小都市や、交通の便に恵まれない、都市から隔絶した農山村では、若年人口が高校を卒業する時期などに転出することにより、今後も趨勢的に人口を減らしていくと考えられる。したがって、今後有効な手だてが講じられない限り、地方圏においても、人口の偏在化が進むと考えられる。
(5) 自治体施策の転出入への効果
各自治体は、基本的には人口増を目指してこれまで施策に取り組んできたが、自治体の施策が人日増減(転出入)に与える影響について明快に示すことは難しい。なぜなら人口増減は多様な要因が絡んで生じるものであり、一概に政策効果を判断することはできないからである。ただ、国土庁の実施した市町村アンケートによると、自治体当局者は以下のように施策の効果を判断しているようである。
●転入の増加に影響を与えていると評価される施策
全国では、「住宅団地の造成」(22.4%)をあげる市町村が最も多い。