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私の視点

 

サイバースペースにおける公と私

坂井利之(龍谷大学大学院理工学研究科研究科長)

 

インターネットが普及してこの数年来、新しい社会環境が生まれつつあり、その「未体験」の世界は不透明という経済状況の用語で語られることが多い。しかし今後はさらに、あらゆる分野で未曾有の事象や様相が出現し、社会・文明ショックの連続になるだろう。そのインターネット空間における「公」と「私」について、考えてみたい。

身近な例から話してみよう。携帯電話が一挙に普及して、電車やホテル、公衆の場で突然ベルが鳴る。そして「公」の空間で、全く個人の「私」の会話と表情が「公」の空間の環境・リズムを打ち破る。劇場や音楽会場、講演や試験場、レストランなどの独特・固有の公の雰囲気が突然にして破壊されることへの対策が、いま試みられつつある。

特定された空間では独特の服装、会話用語があり、そこにいる人々はそれに適応しているが、インターネットの公衆的掲示板を含めネットワークには空間の雰囲気がないため、雑多な言葉や内容が出現・表示される。

地域とか集団・社会に存在するある共通の文化的基盤が、通信ネットワーク網上では全く存在せず、特別の概念も空間も環境も存在しないスペース(サイバースペース)が成立するのである。これをどう呼び、どう運営するかはこれからの大問題になるが、急展開する事実の羅列の前で、試行錯誤の対応が既存の文化圏ごとに行われている。それらの中から、最もサポート数の多いデ・ファクトの基準がいずれ生まれてくるだろう。

時間という制限、空間という境界が絶対的な制約でなくボーダーレスになる、サイバースペース。そのスペースにおける「公」と「私」はどうなるか。私は環境を三つのステップに分けている。

その第一は、自然界の風雨・寒暖に対して、人間を防護し、

 

 

 

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