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縮小する政府の役割

ダニエル・ベル(ハーバード大学名誉教授)

 

200年ぶりの歴史的転換

 

本日は、公共部門と民間部門の役割についての将来的な考え方という点で先駆的なものになると思われるセミナーにおいて、二つの基調講演のうち一つを担当させて頂くことになり、たいへん光栄に存じます。

林教授は日本人の国民性や歴史について幅広く話されましたが、むろん私はこうした分野について論じられる立場にはありません。私が最も興味をもっている分野は、先進工業社会の性格と今日そうした国々で起こっている事柄です。私は四二ページ以上に及ぶ長く詳細な論文を書きましたが、本日それを読むつもりはありません。あまりにも書き込みすぎて、全文の紹介などとても無理だろうと思いますし、もともと私は話の途中で夢中になるとテンポが速くなりすぎて聞き取れないと学生たちから文句を言われるくらいですから、論文をすべて紹介しようとするのは避けるべきかもしれません。しかし本日は、そうした理由とは全く異なる理由から、論文をすべて紹介することはしません。今日、西欧世界で起こっている最も驚くべき変化と思われるものを中心に据えるために、いくつかのテーマを取り出し、それらに焦点を絞りたいと思います。

私は論文の最初のセンテンスをかなり変わった一文で書きだしました。つまり、米国や他の先進工業社会において、現在、政府の役割が縮小しつつあるというものです。アジア地域、インドネシアやシンガポールや中国を見ると、政府の役割はちっとも縮小していないではないかと言われるかもしれません。しかし、重要な点は、政府の役割縮小が起こっているのは主として民主主義国家だという点です。こうした他の国々のほとんどは、ときには民主主義を口にしますが、民主主義国家ではありません。主として強権的政権か軍事政権です。そしてすべての強権的政権や軍事政権は自分たちの権力の維持・拡大に関心をもっています。しかし民主的な社会では、人々は次第に「ノー」と言い始めました。つまり、政府の役割を減らし、もっと多くのことを自分たち自身でやりたいと言いはじめています。これは現在、心理的ならびに制度的な潮流となっています。

最も注目されるのは、こうした動きは過去二○

 

 

 

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