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憲法の第八九条に少し触れたい。八九条にいわく「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」――これは要するに、国の金を社会セクターの活動に対して出してはいけないということである。私たちは社会セクターという言葉を使っているが、ベル先生のご報告の中では、インデペンデント・セクターと言っている。まさにインデペンデント・セクターがインデペンデントであるためには国の金に頼ってはいけない、と言ってるわけである。だからこそインデペンデント・セクターなのである。ところが、今日多くのNPOが国からの補助金を受けている。あれは一体どういうことなのだということになる。この条文を裏返して考えれば、これは何でもないことである。公の支配に属しないインデペンデント・セクターには国の金を使ってはいけないということだ。だから、国のお金を使うのは公の支配に属するものだ。それを自他ともに認めることになる。私は常々、今日フィランソロピーを行う団体は憲法八九条を大きく書いて壁に張っておけと言っている。日夜これを拳々服膺すべきである。

よく世間では、国は金は出しても口は出すな、それを理想にすべきだなどと言う人がいる。私に言わせれば、これはとんでもないこと。金は出しても口を出さないということは憲法違反であって、金を出したら口を出すのは当たり前である。五〇年も前に新憲法が、インデペンデント・セクターとはこういうことであるとうたっている。それをご披露して、私の報告をおわりにしたい。

 

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はやし・ゆうじろう

1916年東京生まれ。東京工業大学電気化学科卒業。経済企画庁経済研究所長、財団法人未来工学研究所長、東京情報大学学長などを経て、1994年より日本財団顧問。著書に『成熟社会・日本の選択』(中央経済社)、共著書に『日本の財団』(中公新書)、訳書に『資本主義の文化的矛盾』(D・ベル著、講談社学術文庫)など。

 

 

 

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