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公益団体の指導・監督は一切政府の手中にあった。いわゆる主務官庁の制度が確立しているからである。このような基本的な枠組みは、第二次大戦後もそのまま継承されて今日に至っている。第二次大戦後、日本は新憲法を制定し、主権在民の民主主義国家に生まれ変わったはずである。しかし、かつての大正デモクラシーの流れが高揚したときと違い、戦後の民主化(民主主義国への衣替え)は政府による改編であった。その政府もまた、実は戦後の日本を占領したGHQ、もっと端的に言えばアメリカによる改編であったとも言える。

このときに新憲法の草案をつくったGHQと日本政府との間で大論争があったことは、今日有名な史実となっている。つまり、英語のJapanese peopleという言葉を日本語では「国民」と訳したのであるが、それが問題だった。GHQとしては、peopleを初めから国民と訳されたのでは民主主義の根本が崩れるという強硬な意見であったようである。ところが、日本語にはそれ以外に適切な言葉がないということがGHQ側にもだんだん理解されて、結局国民でいこうということに落着した。そしてこの実情は、実は今でも少しも変わっていない。しかも、既に述べたように公益の基本を決めるのは政府である。公益活動は政府によって管理される。そういうことを規定した法律が明治時代に制定されたままの民法であるということは既に述べた。とすると、日本は戦前とはほとんど変わっていないということになりそうである。

しかし、世代間の意識のギャップは世界中どこでも見られることであるし、実は日本もその例外ではない。戦前の日本では、市民活動とか市民社会などという言葉はなじみの薄い言葉、むしろ危険な言葉であったということはさきほど述べたが、今日ではそれは普通の言葉になってきた。戦後育ちの若い人々にとっては、国民と言うよりも市民と言ったほうがなじみの深い言葉になったかもしれない。それは国政の場でも例外ではない。ついひと昔前までは当然「国民」と言っていたであろうところを「市民」と表現しているケースが、実は政府の文書の中にも少なくない。現に国会でNPO法案というものが上程(次国会に見送り)されているが、NPO法案というのは俗称で、正式な法律の名前は「市民活動促進法」といい、ここでは市民という言葉が立法府でもまかり通っているのである。だから今、静かな革命が起ころうとしていると言う人がいるが、それは必ずしも的外れの言葉ではないかもしれない。

最後に一つ、新憲法の話が出たので、ここで新

 

 

 

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