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 油による海鳥の死亡は、海岸に漂着することではじめて人の目に触れる。しかし、海岸に漂着する鳥は、実際に死亡した鳥のごく一部である。大部分は海流の関係で流れ着かなかったり、途中で沈んだり、また、漂着しても人に発見されなかったりする。実数は、以上のような理由で漂着鳥の10倍から20倍程度だと思われる。

 実数の推定には、コンピュータによるシミュレーションの方法が開発されている。これらの作業のためには、漂着した種、日時、場所などに加え、どのくらいの頻度で海岸を見回ったのか、などの情報も必要である。

これまで、日本では、鳥の救護への概念はあっても、鳥の被害推定についての考えはなかった。

 今回の事故では、日本ウミスズメ類研究会とPSG日本海鳥保護委員会が、海外研究者との連携をはかった結果、はじめて被害推定の概念が持ち込まれ、その一部が実現した。

 

 被害推定にかかわる部分として、団体の枠を超えて「油汚染海鳥被害委員会」が組織された。この委員会には、(財)日本野鳥の会、(財)日本鳥類保護連盟、(財)世界自然保護基金日本委員会、(財)山階鳥類研究所など、国内主要NGOがくわわった。

 

4.なぜ鳥の被害推定が重要か

・海岸に打ち上げられた鳥は、実際に死んだ鳥のごく一部である。

・世界的に希少な海鳥が含まれている可能性がある

・海鳥は長い寿命を持つ→いったん個体数が減ると、なかなか回復しない

・海鳥は、人間の目には見えにくい海の生物資源量や生態系の変化を、個体数や繁殖成功率の変動という形で反映させるモニターでもある

・鳥だけの問題にとどまらない

※鳥の救護の問題

 通常、こうした事故が起きると、大部分の人の目は鳥の直接的な故護に傾く。しかし、それがすべてではないことを意識するべきである。つまり、事故で失われた個体群が、生態系に元通りに戻るまでが「鳥を救う」ことであり、役割分担をしながら最後まできちんと見守る必要がある。

 

5.今回の事故の被害

 全部で1311羽が死体・もしくは油にまみれた状態で保護収容された(環境庁、3月17日)。しかし、すでに述べたように、実数はその10〜20倍におよんでいる可能性がある。被害鳥のなかには、天売島で足環をつけられたウトウも含まれていた。また、世界でわずかしかいないカンムリウミスズメは、近縁種のウミスズメと非常によく似ており、「ウミスズメ」とされた死体にカンムリウミスズメが含まれている可能性もある。現在、科学者によるさまざまな解析が行われており、被害の全貌が少しずつ明らかになりつつある。

 

6.これからの道

 石油に頼った生活をしている限り、油汚染はどんなに気をつけていても必ず起きる。もし、つぎに我々のまわりで起きたら、どうすればいいのだろうか。そして、いま、どんなことをしておけばいいのだろうか。

 

 

 

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