ナホトカ号重油流出事故と海鳥
北海道海烏センター研究員 小野宏治
1.事故の概要
1997年1月2日未明、暖房用のC重油およそ1000klを積んだロシア船籍の老朽タンカー・ナホトカ号が、冬のおおしけの日本海(鳥根県沖)に沈没した。
破断した船首部分はその後、油を積んだまま福井県三国町沖に流れ着いた。
積み荷の重油は、約6240klが海上に流出した。また、海底に沈んだ船体には、いまだに重油約12500klが残されており、一部はその後も漏れ続けている。
流出した重油は福井県をはじめ、日本海沿岸の8府県におよぶ海岸に漂着した。そして、人間生活だけでなく、自然環境にも大きな影響を与えたのである。
2.鳥の被害の位置づけ
(1)海岸の汚染
漂着した重油による直接的な汚染、景観の悪化
(2)生活環境の悪化
油の揮発成分による悪臭、人体への被害
(3)生態系への被害
・漁業被害一生活への影響
・海洋生態系への被害
・陸上生態系への被害
3.鳥への被害
タンカー事故などによる油の流出や不法投棄は、海洋環境に大きなダメージを与え、多くの海鳥を死に至らしめる。
油はどんな点で海鳥に影響を与えるのだろうか。流出直後から記すと…
[流出直後]
・油の付着による体温の低下
・揮発性ガスによる直接的な中毒
・油の摂取による直接的な中毒
[そしてその後…]
・油の付着による体機能の低下
(飛翔力、潜水力などの低下により採食機能が低下して餓死する(岡・奥山、1992))
・食物連鎖起源による中毒
・採食物、採食範囲の減少による餓死と、繁殖成功率の低下
・抱卵個体の油の付着による卵への影響と繁殖成功率の低下
(卵が孵化しなかったり、孵化しても育たなかったりする)
・つがい相手の死亡による繁殖失敗
・地域個体群の欠落による繁殖個体数の減少(最悪の場合、繁殖地としての崩壊)
などが考えられる。つまり、直接的な死だけではない。