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3)変形性腰椎症及び変形性膝関節症における骨量

今回、女性21症例中骨塩量積分値の減少は11例、52.3%、骨皮質幅指数の低下は8例、38.1%に対し、骨塩量積分値の増多が21例中3例、13.8例、骨皮質幅指数の上昇が8例、38.1%に認められる。男性3症例中骨塩量積分値の増多例はなく、減少例が1、骨皮質幅指数の低下例2、上昇例が1である。又、変形性腰椎症や変形性膝関節症を欠く対照3例中骨塩量積分値の減少は2例、増多は1例、骨皮質幅指数の上昇が2例で、骨密度の増減は実に多様で加齢対生理及び疾患対病理の因果律を見定め難い。

これに関し、白木等は、対照例、骨粗鬆症例、変形性脊椎症例において経年的に脊椎骨密度を観察し、変形性脊椎症例において腰椎骨密度が増加する傾向を見出し、このことから骨密度が増加し続け、変形が憎悪する可能性があることを指摘している。又、小林等は1979年と1986年の2回にわたり新潟県東頸城郡松代町で行なった住民の膝検診の結果として、骨粗鬆症の発症と変形性膝関節症の進行との間に明確な関連は見出せず、これ等疾患の原因は、高齢に伴う多因子の複合となるため単純因子を取り出して明確な関係を検討することは困難である、と述懐している。

4)アルコールと骨量減少の因果関係

常習飲酒男性で重度型変形性腰椎症及び変形性膝関節症に軽度の肝臓障害を合併し、骨密度の顕著な減少を示した症例C22は、アルコールと骨量減少の相関を裏付けていると考える。アルコールは骨芽細胞に毒性があることは知られている。飲酒が骨減少に及ぼす影響は40歳代迄は殆ど見られないが、40歳代を過ぎると性差が見られ、飲酒女性の骨減少度は非飲酒女性に比し顕著となる。男性では女性に比して最大骨量値が高く、その後の消失量も少なく、下限に達するのに長時間が必要で実際に80歳未満の骨粗鬆症は認められていない。

しかし、80歳を越す男性も増加するに伴い男性の骨粗鬆症が問題視され始めた。今回の対照には80歳以上の男性は含まれていないが、60〜70歳代でも大酒家の場合骨減少症、早発性老人性骨粗鬆症に陥る可能性は高いと見なすべきである。

5)ステロイド治療と骨量減少の因果関係

今回対照の症例は難治性喘息で島外の病院においてステロイド療法を繰り返し満月顔睨を呈することがある。相等量のステロイド薬が投与されたと考えられる。当診療所においてもピークフロー値が低下するとブレドニゾロン(10mmg)とネオフィリン(250mmg)の点滴を受け、公営連絡船船長として過酷な職務をこなしている。X線上脊椎及び膝関節に変形性病変を認めない。骨塩量積分値は軽度減少しているが、骨皮質幅指数は正常値を示している。ステロイド骨粗鬆症の発現が知られているので喘一害、のステロイド服用・注射から少量で済むステロイド吸入療法への転換の意義と副作用について患者に対し、インフォームド・コンセントの立場で説明しておく必要がある。トリグルココンチコイドの受容体は、骨芽細胞や消化管上皮細胞弥腎尿細管細胞に分布しており、骨代謝のリモデリングのカブリングを阻害(骨吸収を促進し、骨形成を抑制)し、腸管からのカルシゥム吸収を抑制し、尿細管のカルシウム再吸収を抑制し排泄を促進するためターンオーバーの盛んな海綿骨の骨減少症が起こる。統発性の副甲状腺機能充進症の合併症にも留意する必要がある。

6)薬剤と骨量

抗てんかん薬(アレビアチン)長期服用患者に軽度骨塩量積分値低下と中度骨皮質幅指数の増加を、消化性胃潰瘍治療薬(H2拮抗薬ガスター)長期服用患者に骨塩量指数骨皮質幅指数の両方の軽度増加が認められる。健常男性では中手骨骨密度、皮質幅共に20歳代にピークに達し、以後緩徐に減少し、20〜70歳代迄の減少率は中手骨骨密度で11.9%、皮質幅で14.0%(健常女性の中手骨骨密度は30歳代でピークを示し、50歳以降急激に減少する。

又、中手骨皮質幅は40歳代にピークを示し、50歳以降減少する。40〜70歳代迄の減少率は中手骨骨密度で30.7%、中手骨皮質幅で29.5%である)男性では骨減少率が低く且つ緩徐で、然も数値上骨粗羅症判定のカットオフ値(2.30mm/Al)以下でも骨格系障害の主訴及び所見のない場合があり、個体差の幅も広く、検査値に意義を見出すには経時列的にプロットした上で改めて検討する必要がある。更に骨量増減の消長と長期服用による特定薬剤の副作用との相関は今後の課題である。

 

 

 

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