離島在住高齢者の変形性腰椎症・変形性膝関節症における第2中手骨量について
宮崎県・延岡市立島浦診療所 菅井健二
[本研究は平成5年度愛媛県地域医療向上推進事業(研究事業)助成により実施した]
要旨
愛媛県越智郡魚島村(瀬戸内海離島)国保診療所の患者の殆どが女性高齢者で腰痛・膝関節痛を訴え、変形性腰椎症・変形性膝関節症の診断で消炎鎮痛薬注射による対症療法を受けるが、鎮痛効果は長続きせず連日通院する。変形性腰椎症は椎間板・椎体関節の変性に伴いやがて脊髄症・脊髄神経症に陥る。変形性膝関節症は滑液膜・軟骨の変性に始まり関節炎(OA)が進むと歩行障害を来たす。何れも高齢者の日常生活動作更に生活の質を阻害する疾患である。
しかし、これ等疾患の「変形性」病変の発生前段階における予知医学、更に発生諸要因を除去或いは忌避し得る日常的予防対策は不十分で、現地環境における個々例の青壮年代以後の時系列生活実態に係わる基礎調査の必要を痛感する。今回その一環として、変形性腰椎症・変形性膝関節症の骨量測定(DIP法)を行なったところ、骨塩量は過半数(21例中13例61.9%)において減少し、殆どが骨粗憲症に相当する低値(カットオフ2.30mmA/l以下13例中12例)で、高齢老の疾病構造が多重性であることを認識すると共に引き続き予防医学の基盤となる多角的な疫学調査を進める予定である。
はじめに
愛媛県越智郡魚島村(瀬戸内海離島)国保診療所の患者の殆どが女性高齢者で、腰痛及び膝関節痛を訴え消炎鎮痛剤の注射による対症療法を受けるが、鎮痛効果は長く続かないので連日通院する。上記疾患は日常生活動作(ADL)更に生活の質(QOL)の低下を来す疾患であり、高齢社会における罹患人口も増加の傾向にある。医療に留まらず保健・福祉の観点からも同疾患に対する調査・研究を推進して予防対策を講ずる必要を痛感する。
近年、医学会は無論、社会的にも閉経後の女性に対する骨粗髭症が取り上げられるようになった。老人健康保険法に基づく健康診査に追加され、問診、診察、臨床検査、X線的検査と共に骨塩量測定がスクリーニングに組み込まれ、日本骨代謝学会は原発性骨粗霧症診断基準を作成し、鑑別診断として慢性骨格系変性疾患(変形性脊椎症や変形性膝関節症を含む)を除外することが記されている。
他方、変形性脊椎症や変形性膝関節症の場合X線診断は必須の基準となるが、骨量測定は軽視されている。高齢者、殊に女性の変形性脊椎症、変形性関節症に骨量の減少が同時進行することは当然考えられる。今回、腰痛及び膝関節痛を主訴とし、X線上変形性腰椎症及び変形性膝関節症と診断された外来患者について骨量測定(骨塩量積分値及び骨皮質幅指数)を行なったので報告する。
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