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以上のことから、今後、大腸がん検診における便潜血検査受診率向上のためには複合検診の導入と採便キット配布の工夫(検診対象者が比較的少ない自治体では対象者全員への配布が望ましい)が重要と思われる。

このように、便潜血検査受診率向上が重要であるが、いくら感度の高い便潜血検査、診断能の高いS状結腸内視鏡検査を用いても精検受診率が低ければ検診の有効性は低下する。最近では、大腸がん検診においても精度管理の重要性が指摘されている。検診の精度管理は、検診に関連する一連の方策を行うことにより、検診に用いられる技術を一定水準以上に保ち、検診の有効性を高めることを目的とするものである。

大腸がん検診の精度管理の指標として大腸癌に対する検診の感度・特異度、癌発見率、陽性的中度、偽陽性率などが用いられるが、検診の感度に影響するものとして精検受診率が特に重要といわれている。精検受診動向を把握し、未精検者には勧奨を再三行い、精検受診率を高める必要がある。小林は精検受診率を向上させるためには、市町村の検診担当者の努力に期待せねばならないと報告している。吉井によれば名古屋市では精検未受診者に対して電話で再三勧奨しており、今後精検受診率向上への対策として、以下のことを提案している。

?@要精検者に対して精検に関する知識の普及をはかる、?A医療機関の検査機能を把握し、受診者に情報提供できるようなネットワークづくりを行う、?B受診者の検査での侵襲度、苦痛などを考えると、内視鏡検査の普及より負担の軽い注腸X線検査で精検未受診者をなくすことが必要である。いずれももっともな意見であるが、これらの問題を解決することは容易ではない。

当院では精検受診率向上をめざして平成5年度から積極的な精検受診勧奨を開始した。図1に示した精検受診勧奨の流れに従って行った。その結果、受診勧奨の第1段階である往復はがきの郵送前には受診率は60.9%に過ぎなかったが、電話による受診勧奨後は83.3%まで上昇した(図2)。

さらに、精検受診率向上につながったこと以外に、往復はがきの郵送は、既に精検受診済みであるが、精検機関からの結果連絡のない者の拾い上げを同時に行うことができ、受診者の迫跡調査の千がかりにもなった。日本消化器集団検診学会全国集計委貝会による平成4年度消化器集団検診全国集計の大腸検診のうち地域集検の結果では、精検受診卒は70.1%である。

これに対して、当院での精検受診率は83.3%であり、十分に受診勧奨の成果があったものと考えられる。さらに、平成5年度の精検受診率を要治療者と要精検老に分けて比較すると、要治療者では93.3%と高かったのに対して、要精検者では76.5%であった(図3)。要治療者で9割を越えているが、この理由として、この群は集検現場でS状結腸内視鏡検査を受け、大腸ポリープなどの病変を指摘され、治療を受けるように勧められており、精検受診動機が高いことによると思われる。

精検未受診者258名の受診勧奨後の精検受診状況を未受診の理由別にみると、どうもないからと痔が悪いからを未受診理由とする群では他の群に比べてやや精検受診率が低かった(図5)。今後、これらの精検未受診者に対して、いかに大腸がん検診の啓発活動を行っていくかが大きな課題と思われる。以上から、我々の精検受診率向上への取り組みは十分に効果があったものと考えられる。今後、さらに大腸がん検診の有効性を高めるため、積極的に精検受診勧奨を行っていきたいと考えている。

V.結語

1)大腸がん検診における便潜血検査受診率向上のため検体回収方法および採便キットの配布方法についての工夫と精検受診率向上の試みとして精検未受診者への勧奨を行った。

2)今回の検討から便潜血検査受診率向上のためにわかったことは、?@採便キットは対象者全員に配布した方が受診率が高い、?A希望者のみに採便キットを配布する場合は、単独検診よりも複合検診の方が受診率が高い、?B対象者全員に採便キットを配布した場合は、各種検診の組み合わせによる差は少ない、であった。

3)精検受診率向上をめざして積極的な精検受診勧奨を行ったが、受診勧奨の第1段階である往復はがきの郵送前には受診率は60.9%に過ぎなかったが、電話による受診勧奨後は83.3%まで上昇した。

4)精検未受診者の未受診理由として、どうもないからと痔が悪いからをあげたものがやや精検受診率が低かった。

 

 

 

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