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巡回していることになる。また、1回あたりの平均出張日数は3.7日であり、現地での平均診療日数は1.7日であった。

十島村のように南北に長く拡がった地域では、乗船時と下船時の気象が大きく異なることも多い。また、悪天候や時化に十分対応できない港もある。このように村営船の運行が天候の影響を受けやすく、欠航や遅延が極めて多い。医師は病院内での平常勤務を調整して日程を組んでおり、そのような急な変更に常に柔軟に対応できるとは限らない。また、病院内の受け持ち患者の急変のため出張できなくなったこともある。数字の上では平均した出張日数はそれほど長くはなくても、実際には病院業務に対してかなりの負担を強いている。

出張中に病院内の受け持ち患者が急変することもあり、その場含には他の医師が業務を代行することになる。代行した医師の仕事の予定や対患者関係に及ぼす影響も無視できない。このように離島の診療には様々な困難が絶えず伴っている。また、村営船の航路は黒潮の本流を横断しており、時化の時はかなり揺れる。特に宝島までは15時間もの航海であり、肉体的な疲労も大きい。看護婦など殊に女子職員が同行する場合は、体調に気を使うことも多い。

(2)受診率について(表1)

全島の診療所での平成7年6月の受診者総数は202名で、村民の27.3%であった。島別では、18.0〜54.2%と差がみられたが、地理的な要因や人口の多寡とは直接の相関はなかった。男女で比較すると、全体の受診率が高い島は女性の受診者が多いところであった。
各島の平均年齢は36.7〜53.6歳であり、過疎とはいっても中年層が主体であることが分かる(表1)。島には坂が多く歩行に負担が大きいこと、また生鮮野莱などが不足し食生活もアンバランスになりがちであることなど、温暖な気候とはいえ高齢者にとっては意外に厳しい生活環境である。そのため、比較的早い時期に都市部に転居する者も多い。

しかしながら一方、このように平均年齢が低い割には全体としては多くの人々が診療所をよく利用しているといえる。現地の人々に溶け込み、平素から親身になって健康面で指導している看護婦達の努力が極めて大きい。

また、島別で比較すると、受診率の低い島は明らかに男性の受診者が少ない。診療の折りに医師や保健婦による健康講演会をしばしば開催し、予防医学に対する意識の向上に努めているが、特に中年男性には未だ不徹底のようである。都市部ほどの効果は期待できないが、島の産業や行事に合わせた診療日の設定など、中年男性の受診率の向上にはより細かな工夫もこれまで以上に必要かも知れない。

また、当然ながら平均年齢の相違も受診率に大きく影響する。受診率の特に低い諏訪之瀬島は自然志向の若者が集団で移住した歴史があり、このように島の気候や風土とともに社会文化的な背景も、人口構成、ひいては疾病構造に大きく影響しているといえる。

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