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(3)受診病名について
診療所を受診する契機となった内科系疾患を上位2項目まで調査し集計した(表2)。実際には腰痛症や種々の神経痛、肩関節周囲炎などの運動器疾患も多いが、内科的には高血圧、糖尿病、虚血性心疾患、高脂血症などの成人病が中心である。脳血管障害後遺症や眩最など神経系愁訴を訴える者も多くみられた。また、少数ながら慢性関節リウマチ1名、皮膚筋炎1名、パーキンソン病2名、ジストニア1名、バージャー病1名などの難病もみられた。
内科的な受診病名は成人病が殆どであるが、糖尿病や肝障害は一般の有病率に比較して低値である。細やかなコントロールが必要なほどに進行したり、高齢となって合併症が増加すると都市部に転居する者も多く、そのため比較的健康な者のみが島に残る可能性が考えられた。
現地には検査機器がないため経過観察に必要な検体は鹿児島市に移送している。したがって、定期船の運航日のみが採血可能である。また、実際の測定まで時間を要するが、必ずしも理想的な環境では搬送できないため、データの解釈には十分な配慮を要する。
一度入院を要するほどの疾患に罹患し、その後も本土のその医師のもとに定期的に通院している者も多い。健康状態の推移を詳細に把握した主治医を持つことは理想的であり、その医師から定期処方を受けている場合も多い。しかし、このような患者の急性疾患に現地で迅速に対応するには、既往歴、処方内容、および最近の検査成績についての情報が不可欠であり、主治医と診療所との平素からの緊密な情報交換が望ましい。
頻度の高い消化器疾患の診断については、X線設備がないため制約も大きい。しかしながら、持ち運び可能で管理の容易な超音波断層装置とファイバースコープを、中心となっている診療所に配備し、必要に応じて各島に移送している。そのため、かなりのレベルで診断と経過観察が可能となっている。また、眩量や種々の神経痛の訴えも多い。これらは非定型的で加齢に伴う運動器疾患に起因することも多いため、一般に軽視されがちである。しかしながら、意外に重篤な疾患の予兆であったり、そのような病態をマスクしたり、また、時にわずかな内服薬のみでかなり軽減できたりすることもある。したがって、一度は原因について検査機器の揃った医療機関で詳細に検討しておくことは島民にとっては重要である。
さらに、少数ながら難病の患者も居住している。そのため種々の使用頻度の低い薬剤を多種類揃える必要がある。また、それぞれの副作用に対応するものも揃えるべきであり、このように離島診療には採算性を度外視した考え方が絶対に必要である。また、基本的にgeneralな訓練を受けた内科医が巡回しているが、難病のように稀な疾患や症状であったり、あまりにも初期であったりする場合には意外な盲点が存在する可能性も否定できない。
我々は、島民の既往歴や家族歴を熟知すること、風土や生活環境を詳細に把握すること、救急時の対応を円滑にすること、日程の変更に各自で責任を持って対応することなどのため、院内で島ごとにおおよその担当医を決めている。したがって、互いに巡回する島を時に交代し各医師の専門性をよく活かすとともに、慣れからくる見落としを防ぐ工夫をしている。
さらに、様々な領域の専門医が診察する機会があると有意義であろう。その意味で地域医師会、鹿児島大学病院の各科、同歯学部、鹿児島こども病院の小児科医グループなどはしばしば現地に検診団を派遣しており、特に眼科、耳鼻科、皮膚科診療は島民にとって大きな力となっている。診療所のカルテはこのような診療にオープンとなっており、我々もその後の経過観察に大いに役立たせて頂いている。
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