思われる。
現在、診療面では、外来診療能力の向上を目指しているが、確かに“外来診療学”なるものが形成されるべきであり、面接技術を鍛練し短い限られた時間内での診療の幅をひろげる必要がある。またとりわけ地域医療においては“往診学”なるものも存在するように思われる。これは、common diseasesの多くがその診断のために時間と費用を多大に費やす検査を必要とするものではなく、病歴と身体所見が重要であるという事実があり、また在宅医療の継統にはそのための必要な知識の修得が不可欠であるからである。これには、在宅、施設の福祉保健制度のみならず、介護者にたいする理解をはじめ、家屋内のバリアフリーの構造、介護機器からベッドの配置・向きといった問題に至るまて医師は浅くとも広い知識を身に付けておく必要がある。
さらに筆者は日常診療において懸念していることがある。それは、しばしばおこなわれる侵襲的検査や手術などに対し患者が身体的に、精神的にtolerableであるかということが外科や麻酔科の判断だけで的確に判断され得るかということである。もちろん、これは困難な領域の問題であるが、筆者としては、患者の精神的、心理的、社会的側面を含めた「手術適応」の決定に「総合診療」医がそのイニシアチブを取るのが適切なのではないかと考えている。
V.終わりに
筆者は、へき地医療の体験を通して「総合診療」を目指してきた。「総合診療」は、医療のもつべき基本理念に奉仕する診療であり、臓器による選択をせず、精神的、心理的、社会的側面に配慮する立場であることはすでに述べた。この意味では、最近しばしば目にするQuality of life(QOL)の問題やインフォームドコンセントにみる医師・患者関係も「総合診療」の理念をもって取り組めば、ことさらに強調されるべき問題ではないように思われる。経営的な問題を別にすればHIV診療への取り組みもしかりである。「総合診療」への取り組みは、医療の原点に立ち診療能力を養うことが第一歩であり、「総合診療」はこの能力に裏うちされた心の医療に他ならない。
参考文献
1)福井次矢他(座談会):プライマリーケアを担う総合診療を開設する病院48;197-204.1989.
2)福井次矢:プライマリケアの新しい定義JIM6,p85.1996.
3)Institute of Medicine:A manpower policy for primary health care,National Academy of Sciences,Washington,D.C.,1978.
4)福井次矢他:コンサルテーションの現状 JIM 4,p79-83.1994.
5)プライマリケアの概念とその変遷プライマリケア医学第2版、p2-3、医学書院、1988.
6)日本医師会第IV次生命倫理懇談会「医師に求められる社会的責任」についての報告、日医雑誌116,3,p243-250.1996.
7)第4回総合診療研究会、ワークショップ「総合診療を教えている立場から」1996年2月、自治医科大学
8)福井次矢;総合診療の意義と現状、展望治療、78,p140-142.1996.
9)今中孝信;外来診療の基本と工夫JIM4,p778-781.1994.
(佐賀医科大学総含診療部 〒849 佐賀県佐賀市鍋島5-1-1)
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