4.継続性 Continuity
継続性は、継続して患者の診療に責任をもつことであり、近接性、包括性、統合性という特性なしには存在しなぃものである。その継続性は患者が病気から治癒しても存在し、患者が病気であるか否かによらないということになる。しかし、その達成には患者が継続して同じ主治医にかかるということが望ましく、医師。患者関係の信頼度に依存するところが大きい。継続性には"かかりつけ医"的な意義があり、特定の医師とのなるべく長い年限の接触が好ましい。
しかし、へき地診療所も大学病院をはじめとする大病院と同様、2〜3年の単位で医師が交替していくのが現実であり、この意味では土地に根づく開業医の役割が大きい。ただし、時間的継続性の困難さは健康に関する記録を正確に残していくことで補われる点もある。へき地医療では、自ずから後方中核病院への検査や治療の依頼が多くなるが、しばしば病院間でみられる患者の奪い合いというような事態は全くみられず、診療は途切れることがない。
筆者は、継続性の意義は何よりも医師の診療能力の向上につながると考えている。かぜ症候群と診断した患者が本当にそうであったか、慢性関節リウマチと診断した患者がその後どのような治療でどのような経過をたどったか、そのような結果が診療にフィードバックされることになり、医師に最高の教育をもたらすのである。当町のような小さな町では、たとえ患者が他医を訪れることになってもその経過や結果を知ることができる場合も多い。 玉之浦町高齢者調整チームによるチーム医療が継続性へ果たす役割は大変大きく、小さな町ならではの小回りのきく医療が展開されている。
5.責任性 Accountability
これは医療に共通の前提であり、1から4の各特性の遂行に際し必須となるものである。ここで特に強調される点はプライマリケアの担当者が、患者、家族に対して病気やそれを取り巻く諸問題についての十分な説明ができること、医療内容についてのチェックシステムを有してぃること、医療従事者の生涯教育を実施していること、さらに施設の経営効率を配慮していることも含まれる。医師に求められる社会的責任は、医師をめぐる環境の変化とともにますます大きくなってきている。医師は新しい医療体制のなかで、常に社会及び患者に対する責任をはたす医療を心掛けなければならない。
IV.「総合診療」の現実と将来
「総合診療」の発展にどのような高邁な理念を立てようとも、まず優先されるのが実地で生かすことのできる診療能力であり、それはとりわけ包括性、責任性を備えるものでなければならない。それには教育が必要であり、学ぶ側の問題と共に教育システムを含めた教える側の問題がある。例えば、現在までへき地医療に携わっている医師の多くは臓器別の専門医になったあと地域医療に携わり診療の幅を広げてきたという現実がある。筆者は、自分なりに卒業後「総合診療」医を目指し取り組んできたという自負があるが、これとて研修をはじめた大学病院でのかたよらない症例の経験や出向した関連病院の各診療科の壁のないシステム、そして患者の心理面、社会面を尊重する先輩医師の指導といった数々の貴重な遭遇があったからである。
しかし、総合診療の発展にはたまたまの遭遇でなく、普遍的な教育システムの確立が急務である。現段階においては、教える側、いわば第一世代とも言える指導医の供給が最大の問題であるという提言があるが同感である。第二世代の指導医を育てるためには、少なくとも「総合診療」の必要性を理解し、患者の価値観を尊重し、一定の診療能力を持つ指導医師の存在が不可欠である。そして、今後は指導医の真の能力は論文や学会での発表という業績だけでは評価できないという難しい問題も生じてくると思われる。
卒業後16年を経過した筆者ですら、特殊性をもった専門的診断、治療手技の修得には魅力を感じる。卒業後間もない若い医師たちがそのような技量に興味をそそられるのは無理からぬことであって、彼ら
は必然的に狭い専門分野に入っていくことになる。「総合診療」の場合には“臓器を横断的に診ることの専門性”をいかに発展させていけるかが今後の大きな課題であって、それが「総合診療」のidentityを確立することにつながると思われる。そして“日常診療と研究面(臨床疫学、決断科学の手法を用いたアプローチなど)での知的興味をいかに引き出せるか、そして医療界でのプレスティージをいかに高められるか”(福井)などの問題を解決することが総合診療をさらに発展させ高度化させる要因となると