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総合医療の確立めざす

−診療所医を後押し高齢社会へ期待大きく−


昨年、国から「へき地医療指定病院」に選ばれた五条市野原町、県立五条病院(鎌田喜太郎病院長)北病棟の小児科隣に、耳慣れない「へき地医療支援部」という看板が立てられたのは今年8月。同支援部の主な仕事は、県内11カ所の村立、国保の診療所に住みながら勤務する若い医師たちへの「代診」制度を確立すること。学会、研究、冠婚葬祭、病気など、若い医師たちに抜けられない用事がある際には、支援部の代診医が代わりに勤務してくれる、県では初めての制度だ。同支援部は、部長である武田以知郎医師(小児科)と耳鼻科担当医長のたった2人でのスタートだが、これからの役割に期待がかかるばかりだ。

県内のへき地診療所は、十津川村2力所、大塔村、野迫川村などの吉野郡と都祁村、山添村の山辺郡などに計11カ所が点在する。そのほとんどが、学費免除の関係で、9年間を1つの都道府県で勤務することが義務となっている自治医大出身者が支える。
同医大出身者は普通、2年の病院勤務で研修を終え、さらに2年ほど住み込みしかできないようなへき地診療所に勤務する。この後、病院に戻ってさらに研究する時間が与えられ、また、へき地に戻る。こうして9年間の義務を終え、ほとんどの医師が病院医局で「普通」の専門医として再スタートしてしまうのが現状のようだ。
武田部長は「高齢化する山間部での医師は、包括医療、総合医療を行う貴重な存在です。しかし、『総合区』は、社会的な地位を確保することはできませんでした。へき地医療に情熱を傾けたくとも、今まではその学問的な基盤がなかったのです」と話す。
武田部長は天川村、大塔村診療所所長を歴任。その期間、薬品会社と協力して、話題の「骨粗しょう症」のレントゲン撮影による診察を全国でも先駆けて確立した。総合医療を、医学の一部分を占める重要な分野にしようと頑張るパイオニア的存在だ。若い医師らに勉強の機会を与え、総合医療の充実を担う同支援部の役割は大きい。
今年10月1日には、へき地勤務の医師確保などを目的に、県が「地域医療センター」を設置した。高齢化が進む現在の奈良県にとって、総合医療の確立は最重要課題の一つともなっている。
     (編者注)奈良新聞平成7年12月14日より

 

 

 

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