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はなく、入浴という最も相手が望むQOLを高める身近なケアも、全人的な治療の一環でなかろうか。
そんな点を理解してもらえないのだろうか,。Mさん93歳。千葉県で一番高い嶺岡山の中腹にこれまた高齢世帯だけの部落がある。往診の依頼があったHさんの家よりずっと入った所であり、途中に人家もない部落である。市の保健婦さんより話があり、開業医の往診を受けていたが、先生も体の具合が悪くなり往診に来てもらえなくなったので、ここ数年、どこにも診てもらっていない。一度診て、その後定期的にステーションに行ってくれないか、と言う話の内容であった。
早速、訪間すると、高齢の患者と心臓の手術をしたという70を過ぎた娘と2人で住んでいた。娘は「困っていた。喘息で長い間かかっていた。内服はしているが、交通の便もなく病院嫌いで行かないと言う。心配でした」と話す。2人の住む家からバス停まで歩くと1時間はかかり、その上1時間に1本のバスである。心臓の悪い娘が連れて行かれる訳がない。
患者は、喘息、を長く患っていたため、喘鳴と体動後の息切れがあり、とても歩ける状態ではない。近所は皆高齢者ばかりである。街道沿いに1軒たった1台のタクシーがあるも、病院までは往復5千円以上の負担になる。このように山深い所では、病院まで行くという事は大変な事なのである。この山の向こう側では、病院に通う人達に自分の車を提供し、送迎にあたっている人がいる。Yさんも例外ではない。足が不自由で、主に入浴介助にあたっているが、出来れば外来をと勧められている。
しかし、交通手段である車は、別に住む孫夫婦に頼んで来るのである。孫夫婦に遠慮と気兼ねをしているのがわかる。嫁、姑の関係を長く続けている私には、その気持ちは理解できる。また、「具合が悪そうだが」との相談に「救急車を頼みなさい」と、言った医師。しかし、その殆とが騰躍する。何故なら、その後の人間関係が実に煩わしいのである。目立つ救急車がいつも平和な村に来ると一大事件なのである。どうした、どうしたと、好奇の目で見られ、その事件をきっかけとしてプライバシーまで侵害される。古いしきたりや因習がまだ残るこの地域では、時々集まる地区の集会の話題にもなる。もちろん、一目見でこれは大変な事態だというときは例外である。本来の救急車の目的とこれでは少し違うのではないかと考える。
以上述べた人達は、買い物は近所の人に頼み、内服など取りに行くことは隣の人などに頼んでいる。こんな笑い話がある。「いつも来ている人が近頃見えないね。具合が悪いのかしら」と、病院での処置室の会話である。具合が良く歩ける人は病院に来るのである。本当に具合が悪く大変な人達は行きたくても行けないで在宅にいるのである。
だからこそ医師が行く定期的な訪間診療は必要なのである。往診依頼は患者からのSOSであるということを伝えたい。医療は今、サービスの時代である。病院で待っているだけではなく、ぜひ医師達は在宅へと足を向けてほしいと思う私の気持ちは、全国の在宅を支援するナース連の声でもある。
(鴨川市立国保病院〒296-01千葉県鴨川市宮山238)

 

 

 

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